「全く、この汚い部屋、早く何とかしたいとずっと思ってたんですよ」

「…」

「無駄な書類ばかり集めて。これだから、重要な書類をすぐになくすんです」

「…」

「ご覧なさい、書類の束の下に、チョコレートの箱を隠して…。知能が小学生以下なんですから」

「…」

「これはゴミ。こっちもゴミ。何ですかこれは。捨てましょう」

僕は、心の中で学院長に謝った。

僕は止めましたからね。家主がいないのに勝手に入るのは…って。

でも、あなたが悪いんですよ。

他でもないこのイレースさんに、学院長代理を任せたのは、あなたなんですから。

僕と天音さんは、目の前で広がっている光景を、ただ黙って眺めていた。

何をやっているのかと言うと…いや、もう言うまでもないが…掃除である。

イレースさんは、本来の家主がいない間に、学院長室の大掃除を始めたのである。

イレースさんはまず、大きなゴミ袋を何枚もと、職員室に置いてあるシュレッダーを持ってきて。

容赦なく、片っ端から、片付けを始めてしまった。

一応保身の為に、もう一度言っとくけど。

僕、止めたからな。

悪いの僕じゃないんで。はい。

学院長室は、イレースさんの手によって、美しく生まれ変わろうとしていた。

イレースさんが精査し、要らないと判断されたものは、ドサドサドサ、とゴミ袋に容赦なく叩き入れられ。

学院長秘蔵のチョコレートの箱も、ゴミ箱いき。

あーあ…。勿体な…。

そして、書類。

溜めに溜め込んでいた、無駄な書類の山。

次々と、シュレッダーにドガガガガと吸い込まれ。

紙屑と化していった。

しまいには、シュレッダーが限界を訴えていた。

シュレッダーが、吸い込み途中の紙束を挟んだまま、ピーピー鳴り出した。

キッ、とシュレッダーを睨み付けるイレースさん。

怖っ。

見てみると、真ん中の方のライトがぴかぴか点灯していた。

あれだ、これ。

中のゴミ袋が一杯になっているので、替えてくださいと訴えてるのだ。

もう私、お腹一杯だから、これ以上食べられません状態。

しかし。

イレースさんは、シュレッダーのダストボックスを引っ張り出した。

ダストボックスに入っていたゴミ袋は、既に飽和状態。

さすがにあれは取り替えなきゃいけないだろう…と、思ったが。

甘かった。

「まだ入るでしょう。ゴミ袋だって経費のうちに入ってるんですから、無駄に使う余裕はありません」

との、冷徹なお返事。

イレースさんは、ゴミ袋の中に、大胆に両手を突っ込み。

裁断された紙屑を、ぎゅうぎゅうと押し込んだ。

紙屑の悲鳴が聞こえた気がした。

無理矢理押し込んだことで、更なるスペースを確保。

再びダストボックスをシュレッダーに戻し、裁断開始。

「お腹一杯って言ったのに…」という、シュレッダーの泣き声が聞こえた気がした。

これには、天音さんも絶句。

しかしイレースさんだけは、容赦なく不要な書類をシュレッダーにかけ続けた。

さすが、元ラミッドフルスの鬼教官。

心から尊敬しています。はい。