「うぐっ…。…ってぇな、この野郎…」

前足も使うんなら、前足も使いますよって言っとけよ。

お陰で、痛い目見る羽目になっちまった。

俺は片膝を立てて座り込み、肩で息をしている有り様だった。

胸の出血と、背中に刺さった二本の矢。

一方、サディアスは無傷。

召喚魔のケルベロスに至っては、真ん中の首でベリクリーデを咥え、左の首も健在。

おまけに、先程断ち切った右の首も、少しずつ再生を始めていた。

さて、絶望的状況。

この状態から、どうやって逆転したもんかね?

まぁ、心配するな。

シルナ・エインリーは、この程度の逆境、いくつも乗り越えてきたんだ。

だったら、同じ時代を生きた俺が、こんなところでくたばるはずがないよな?

「大人しく降伏した方が、あなたの為ですよ」

と、俺を見下ろすサディアス。

ご忠告どうも。

「悪いが、俺は勝機のある戦いで降伏する趣味はなくてね」

「ここからどうやって、あなたが逆転出来ると?」

「まぁ見てろよ、若造」

俺は、背中に刺さった二本の矢を引き抜いた。

激しい痛みと共に、血飛沫が待った。

「っ…」

「ジュリス、大丈夫?痛そう」

ケルベロスの口に咥えられたまま、ぷらーんとぶら下がっているベリクリーデが、他人事みたいに言った。

「いてぇに決まってんだろ、馬鹿」

何当たり前のこと聞いてんだ。

「ねぇ、ジュリス」

「あん?」

「私もね、さっきからこの子の犬歯がチクチク当たって、痛い」

「我慢しろ、そのくらい」

俺は背中に弓矢二本、胸はケルベロスの爪で引き裂かれたんだぞ。

犬歯チクチクが何だ。

「あとね、ジュリス。もう一個言って良い?」

「あぁ?まだなんかあんのかよ」

「ジュリスがね、さっきそこでじっとしてろって言うから、じっとしてたけど」

そのとき。

驚くべきことが起きた。

ベリクリーデを咥えていたケルベロスの真ん中の首が、風船みたいに膨らんで。

風船みたいに、バチンと弾けた。

「ジュリスが苦しそうな顔してるから、我慢出来ない」

「…」

しゅたっ、と俺の横に降りてきたベリクリーデは。

相も変わらず、けろっとして俺にそう言った。