私は会話の最中、背中の後ろで、雷と炎魔法の複合魔法を作っていた。

時間稼ぎをしていたのは、そういう理由だ。

これを上手くぶつければ、パーシヴァルも…。

「…で?時間稼ぎは終わったか?軍師さんよ」

「…」

…やはり、気づかれていたか。

わざと長い会話をして、私が何かを企んでいることを。

気づかれていることも、想定内だ。

「そんな魔法で、俺を殺せるとでも思ってるのか?浅知恵だな」

「まさか。初めから、あなたと戦うつもりはありません」

「何…?」

私は、壁に向かって杖を振るった。

出口がないなら、作れば良いだけの話。

私は、渾身の魔力を込めて、雷と炎の複合魔法を壁にぶつけた。

出入り口の氷は、厚くて壊せない。

でも、氷の薄い壁なら、この威力で充分割れるはずだ。

「っ!てめぇ!」

壁がぶち破られ、隣の部屋と繋がった。

これで、逃げ道は作れた。

あとは逃げるだけだ。

しかし。

「させるか!」

パーシヴァルの氷の刃が、無数に飛んできた。

私はアイナをしっかりと抱き締め、その刃がアイナに当たらないように庇った。

「逃げなさい、アイナ。あなただけでも逃げなさい」

私はアイナを庇いながら、そう言った。

瞳に涙をいっぱい浮かべた愛娘は、いやいやと言うように、首を横に振った。

「おかあしゃま。おかあしゃまと一緒が良い」

そうね。

私も、あなたと一緒が良い。

あなたと、あなたのお父さんと、あなたの妹か弟になるお腹の子と、一緒が良い。

でも、それがアルデン人の私に、不相応な幸せだと言うなら。

せめて、あなただけでも。

「行きなさい、アイナ。逃げなさい」

「いや!おかあしゃまも一緒!」

アイナは、私にしがみついて離れなかった。

あぁ、神様。

アルデン人であることは、そんなに悪いことなのですか。

私を求め、すがりつき、涙を流す我が子を、突き放さなければならないなんて。

そんな拷問のようなことを、私にしろと言うのですか。

「あ、アイナ…」

パーシヴァルが放った氷の刃が、私の肩に刺さった。

でも、痛みは感じなかった。

私が痛いのは、心の方だった。

「逃げなさい、あなただけでも…!」

私はこの子を初めて抱き締めたときに、誓ったのだ。

何があっても、私は決して、私の母がそうしたように、自分の娘を捨てたりはしないと。

絶対に、娘を守り抜くと。

だから、その誓いを守らせてくれ。

私の背中に、また一本、ぐさりと氷の刃が刺さった。

「…っ…」

知ったことか。こんな痛みなど。

我が子を、この手で手放さなければならない苦しみと比べたら。

「行きなさい、アイナ…!あなただけでも、生きて…!」

「お、おかあしゃま…」

涙で娘の顔が見えない。

ちゃんと見たいのに。

私とアトラスさんの、愛の証であるこの子の顔を、ちゃんと見たいのに。

どうしても、涙で前が見えない。

でも、もう時間がない。

「…今生の名残は尽きたか?」

私は、迫り来るパーシヴァルを背後に感じ。

アイナを無理矢理突き飛ばそうと、手をあげた…、



そのとき。