神殺しのクロノスタシス2

「君は、イーニシュフェルト魔導学院でやっていく能力がある。だから入学出来たんだ。才能がなかったら、そもそも入学出来てないよ」

その通り。

自慢じゃないが、イーニシュフェルト魔導学院の倍率、何倍だと思ってるんだ。

才能のない奴を入学させる枠なんて、一人分だってあるものか。

シャーロットはまがりなりにも、その何倍もの倍率を勝ち抜いてきた、選ばれし魔導師の卵なのだ。

才能がない訳がない。

才能はあるのに、ただ自信がないだけなのだ。

「シャーロットちゃん。私が思うに、天才には二種類あるんだ」

「二種類…?」

出た。

シルナが、自信をなくした生徒によく使う台詞だ。

「一つ目は、聞いたこと、教えてもらったことをすぐに覚えてしまう、直感型の天才。生まれながらの天才肌って奴だね。大抵のことは、何でも人並み以上にこなせる人」

「…」

「イーニシュフェルトに来ている生徒のうち、大半がこれに当たる」

「…」

…それなのに、私は違う。

シャーロットは、そう言いたそうに俯いた。

そうだ。シャーロットは、そのタイプの天才ではないのだろう。

だが。

「そして二つ目。一度聞いただけじゃ分からないから、何度も何度も繰り返して勉強して、コツコツ努力して身に付けていくタイプ。これもまた一つの才能で、シャーロットちゃんはこっちのタイプの天才だね」

「わ…私が天才なんて」

「いや、天才だよ」

俺に言わせれば、こっちのタイプの天才の方が、得難い人材だと思っている。

「どちらのタイプの天才にも、メリットとデメリットがある。まず前者の方だけど…」

と、シルナは説明を始めた。

「教えられたことを一度で覚えられるのは、それこそ天才だよね。時間をかけることなく、実力をつけることが出来る。傍目から見れば、羨ましいよね」

「…」

大きく頷きたいであろうシャーロット。

彼女にとっては、前者のタイプの天才は、羨望の対象だろう。

しかし、そんな彼らにもデメリットがある。

「だけどね、魔導師としての人生は長い。感覚だけでずっとやっていくと、いずれ必ずスランプに陥るときが来る。才能の頭打ちって言うかな…。いつか、限界が来るんだよ」

「限界…」

何でも器用にこなすのは結構だが。

それだけでやっていけるほど、魔導師の世界は甘くないってことだな。

「そして、いざスランプを迎えたとき、今まで感覚だけで魔法を使ってきた子は、途端に困ることになるんだ。何せ今まで感覚で魔法を使ってきたんだから、今更理論とか基礎とか、問われても分からないんだよ」

普段、何気なくやってることをいちいち意識したことがあるか?

立ち方座り方歩き方、いちいち考えたことがあるか?

いざそれが出来なくなったとき、自分がかつてどうやってそれをやっていたのか、分からなくなる。

一度スランプに陥ると、再び立ち直るのに時間がかかる。

それが、この直感型天才の最大の欠点なのだ。

最悪、スランプのまま一生立ち直れず、魔導師をやめてしまう人もいる。

「一方シャーロットちゃんみたいな、努力型の天才。このタイプは、呑み込むのに時間がかかる。なかなか理解出来なくて、辛い思いをすることもあるだろう」

今のシャーロットが、さながらそれだ。

「だけどこのタイプは、一度呑み込むと忘れない。呑み込んだときに、完全に自分のものにしてしまうからね。スランプにも陥りにくいし、もしスランプに陥っても、すぐに立ち直れる」

自分の中に、確かに積み上げてきたものがあるから。

例えスランプに陥ったとしても、すぐに取り戻すことが出来るのだ。

このタイプの最大の強みが、これだ。

「だからシャーロットちゃんは、いくら時間がかかっても良い。分かんなくても良い、ついていけなくても良い。シャーロットちゃんのペースで、ゆっくりゆっくり、基礎から積み上げていけば良い」

「…」

「諦めずに積み重ねていったものは、決して君を裏切らない。いつかそれが大きな力になって、シャーロットちゃんの最大の武器になる日が来る」

「…本当に?本当にそんな日が来るんですか?」

「来るよ。大丈夫」

シルナが、今まで何人の生徒を見てきたと思ってる。

無駄に年齢だけ重ねてるように見えるが、これで一応、年の功、って奴もご立派に持っていらっしゃるのだ。この学院長は。