神殺しのクロノスタシス2

…ようやく、入れてくれたのは良いものの。

彼女の元気のなさと来たら、お化け屋敷から出たばかりのシルナのよう。

これはただ事ではなさそうだ。

まぁ、一週間も授業に出てない時点で、ただ事ではないのだが。

魔導師の卵である彼女達は、体内の保有魔力が高いお陰で、食事をする必要はない。

それでも彼女は、何日も飲まず食わずだったかのように、やつれ果てていた。

「…」

シャーロットはベッドに腰掛けて、押し黙っていた。

部屋の中を、視線だけでさりげなくぐるりと見渡した。

シャーロットのものと思われるデスクの上には、テキストやノート、筆記用具が乱雑に置かれていた。

授業には出ていなくても、勉強だけはしていたようだ。

シルナも、デスクの上のテキストには気づいているに違いないが。

敢えて指摘はせず、その代わりに、シャーロットがベッドの上に置いている、羊のぬいぐるみを目敏く見つけ。

「あーっ…。シャーロットちゃん、羊派だったか~…。惜しかったな~」

大袈裟にそう言った。

惜しいか?

「可愛いね、その羊ちゃん。名前何て言うの?」

「名前…?」

「うん、名前。つけてあげてるの?」

「…」

俯き気味に、こくん、と頷くシャーロット。

「何て名前?」

「…メリーちゃん」

シンプルだが、羊っぽくて良いな。

「へぇ~可愛いなぁ。メリーちゃんって言うんだ。こんにちはメリーちゃん。私シルナ。宜しくね~」

ぬいぐるみに挨拶する学院長。シルナ・エインリー。

「寮にまで連れてきたってことは、シャーロットちゃんとメリーちゃんは、昔からの仲良しなの?」

「…ん」

またも、こくん、と頷く。

「シャーロットちゃんの出身は…確か…北方都市のカリナだったよね」

こくん、と頷くシャーロット。

カリナは、ルーデュニア聖王国北部にある、小さな街だ。

南方都市シャネオンのように栄えてはおらず、どちらかと言うと素朴な…悪く言うと、まぁ、田舎街である。

建物が建ち並ぶ景色より、田園風景の方がよく見られる都市だ。

「遠いところから来たんだね。王都に来るのは、今回が初めて?」

頷くシャーロット。

「カリナとセレーナじゃ、随分環境が違うでしょう?」

「…」

シルナが尋ねると、シャーロットはいきなり核心を突かれたらしく。

泣きそうな顔で、こう訴えた。

「…学院長、先生」

「なぁに?」

「私…家に帰りたいです」

…やはりそうか、と思った。

この時期、一部の新入生がしばしば陥る現象。

所謂…ホームシック、という奴である。