何の為に、ここにやって来たのか。

その理由は。

「…お久し振りの方もいれば、初めましての方もいますね」

聖魔騎士団団長と、魔導部隊大隊長達に、ナジュと会わせる為である。

イレースは聖魔騎士団の人間ではないが、『禁忌の黒魔導書』に関わった魔導師として、この場に集まっている。

実質彼女も大隊長みたいなもんだしな、最早。

そして、天音も。

天音は現在イーニシュフェルト魔導学院を離れ、正式に聖魔騎士団魔導部隊に入隊した。

シルナが、そう勧めたのだ。

流浪の旅も悪くないが、これも何かの縁と思って、この国を守ってくれる気はないか、と。

ナジュがそれを聞けば、「相変わらず腹黒ですね」とか言いそうだ。

さて、気を取り直して。

「どう振る舞ったら良いですか?手錠でもかけられて、電気椅子に座った方が良いですか?」

「…そのままで良いですよ」

答えたのは、聖魔騎士団魔導部隊隊長にして、聖魔騎士団団長の妻。

つまり、シュニィのことである。

お腹の大きな彼女を、この場に呼ぶかどうか迷ったのだが。

さすがに事が事なので、声をかけさせてもらった。

アトラスが、専属ボディーガードみたいにシュニィにぴったりくっついて、離れようとしない。

何なら、シュニィに蜂でも寄ってきただけで抜刀しそうだな。

「今だから言いますけど、僕、あなたが身ごもったと聞いて、あなたを人質にすることも考えてたんですよ」

ナジュは、けろっとして言ってのけた。

「貴様!」

アトラスが剣を掴み、抜こうとした。

しかし、シュニィがそれを制した。

「大丈夫です。分かってますから」

「そうですか。それで、一つ聞きたいんですが」

「何でしょう?」

「僕は一体、この場でどういう振る舞いをすれば良いんですか?」

「…」

唐突な質問だが。

ナジュにとっては、気になるところだろうな。

「皆さんご迷惑かけてごめんなさいと、膝をつくべきですか?」

「…その必要はありません」

「それとも、捕虜として、しおらしくしているべきですか」

「その必要もありません」

「じゃあ、どういう立場であなた達の前に立てば良いのか、教えてください」

…難しい質問だ。

かつての敵だからな、ナジュは。

この中には、ナジュが封印を解いた『禁忌の黒魔導書』のせいで、傷ついた者もいる。

吐月やクュルナのように、怪我を負わされた者もいる。

人質の取引材料として利用されそうになった、ベリクリーデもいる。

そういう意味では、ナジュが今すぐ膝をついて土下座しろ、と言われても仕方ないのかもしれない。

だが。

ここにいる全員が、ナジュの過去を知っている。

シルナが教えたからだ。

あれを知って、それでもなおナジュを罵ることが出来る者は、一人もいなかった。