神殺しのクロノスタシス2

「何なら開けてくれる?何でも用意してくるから!あっ、最近の若い子は、むしろちょっとマイナーな動物の方が好きなの?ワニとか?アルパカとか?」

私ニシキヘビ好きなんです、って言われたら、本当に用意してきそうな勢いだな。

「何でも持ってきてあげるから~!開けて~!」

目的変わってね?

シャーロットは別に、パペット人形が欲しいから引きこもってる訳じゃないだろ。

「お願いだよ~!折角授業の合間に買ってきたシルナうさぎが」

お前、この為にわざわざ買ってきたのかよ。

世の中に、こんなに無駄な買い物があるだろうか。

「シャーロットちゃぁぁぁん。うさぎぃぃぃ」

うさぎーじゃねぇ。

いよいよもって見苦しいので、そろそろシルナを窓から放り投げようかと思ったら。

「い、嫌です。私…話したくないです」

シャーロットが、震える声で言った。

話したくない…ねぇ。

「話したくない…?じゃあ話さなくて良いから、一緒にケーキ食べよう…?」

そしてお前は、二日続けて生徒をケーキで釣るのか。

話したくないって、多分そういう意味じゃないから。

誰にも会いたくないって意味だから。

「ケーキ…。チョコケーキ食べようよー一緒に…」

しかもまたチョコか。

「シャーロットちゃん…。しる、シルナうさぎだよほら。シルナうさぎ、ケーキ食べたいな~」

パペットやめろって。

ケーキを食べたいのはうさぎじゃなくて、他ならぬ自分だろうに。

…あぁ、頭痛くなってきた。

…とにかく。

部屋を開けるも開けないも、ケーキを食べるも食べないも、本人次第ではあるけれど。

「いつまでそうしてたって、現状は何も変わらないぞ」

俺は、扉越しにシャーロットに向かって言った。

「ちょ、羽久」

「お前はまだ子供なんだから、困ったら遠慮なく大人に頼れば良いんだ。ましてや、シルナがこうして手を差し伸べてるんだから。助かろうと思えば助かる。そのチャンスを、自分からフイにするのか?」

厳しいことを言ってるのかもしれない。

だが…自ら助かろうとしない者を、助けることは出来ない。

ならば。

「自分ではどうにも出来ないと思っていても、実は何とかなることはいくらでもある。まずは、他人に相談してみることから始めてみたらどうだ?」

「…」

俺がそう言って、ほんの十数秒。

少しだけ、扉が開いた。

「!うさちゃん!シルナうさぎちゃんだよ!」

すかさずパペットをつけるシルナ。

「うさぎちゃんとお話ししよ!」

「…」

扉が開き、ようやく俺達は、シャーロット・エフィラムの姿を見ることが出来た。

肩まで届く髪がボサボサになり、薄い水色のルームウェアを着た、まだあどけなさの残る少女。

それが、彼女であった。