そのまま天音は、ナジュの上に馬乗りになって。
これでもかと言うほど、ナジュの顔をタコ殴りにした。
いくら不死身と言えど…。
「お前が…お前が、お前が!お前のせいで!」
天音は、泣き叫びながら、ナジュを殴り続けた。
気持ちが分かるだけに、天音を止めることは出来なかった。
ナジュもまた、抵抗しなかった。
許しも乞わなかった。
むしろ、自分はこうされるのが当然とばかりに、甘んじて殴られ続けていた。
「罪のない人が死んだ!皆…皆良い人達だったのに!お前より、お前なんかよりずっと…!」
「…」
「お前は裁きを受けたつもりでも、死んだ人は、死んだ人はもう帰ってこないんだ!」
殴り過ぎて、天音の拳に血が滲み始めた。
…天音。お前も分かっているのだろう。
今、どれほどナジュを殴ったとしても。
死んだ人は、もう帰ってこないんだと。
「うぅ…あぁ…」
天音は、血の滲む手で泣き腫らした目を、塞いだ。
今の天音の気持ちを考えると、こちらも辛くなってくる。
そして、天音にタコ殴りにされて、顔面ボッコボコにされて、それでも何も言わないナジュの気持ちも。
「…天音君」
シルナが、そっと天音の肩に手を置いた。
「許してあげて、とは言えない。それだけは誰にも言えない。だけど、ナジュ君は…」
「知ってます。分かってます…!僕も聞きました」
ナジュの身に何があったのかは、天音にも話してある。
同情もしただろう。
情状酌量の余地ありと思っただろう。
でもだからって、簡単に許せる問題じゃない。
それはそれ、これはこれだ。
だって、天音の言う通り。
死んだ人は、もう戻ってこないのだから。「良い人達だったのに…。皆良い人達だったのに…。あんな、家畜を捌くように…」
「…」
「僕は彼らを守りたかったのに。助けてあげたかっただけなのに…!どうして…!」
…本当、どうしてなんだろうな。
二人共、それぞれ各々の事情があった。
ただ今回は、それが互いに噛み合わなかっただけで…。
「…許さなくて、良いですよ」
ナジュは、腫らした唇から声を出した。
「許される、ことじゃ…」
「そんなの分かってる!」
天音が叫んだ。
「だけど、だけどあんなこと聞かされたら!あなたにそんな事情があって、僕と同じように、大事な人を守りたかっただけなんだって知って!許せないけど、許せないけど…!」
「…」
「…これ以上、あなたを責めることなんて、出来ないじゃないか…」
「…」
天音は、もうナジュを殴らなかった。
気が済んだ訳でも、許した訳でもない。
何で、こんなことになったんだろうな。
違う場所で出会っていたら、友人にでもなれただろうに。
「…生きて」
天音は、ぽつりとそう言った。
「生きて、罪を償うと約束してください」
「…約束します。必ず」
「死んだ人に、あなたに殺された人に恥じない生涯を、歩んでください」
「…難しいですね。でも、努力します」
…長い、贖罪の道のりになりそうだな。
何せ、不死身の身体だ。
そう簡単に、許しは得られない。
だから、ナジュ・アンブローシア。
お前は自分に与えられた無限の時間を、懸命に生きろ。
それが、お前の贖罪だ。


