自分で言うのは憚られるが。

この形態になった俺に、そう簡単に敵う者はいない。

最初からいきなり全力出させられるとは。

ベルフェゴールは、俺に何を言おうとしていたのか。

色々気になるが、今は目の前の敵を退けることだけを考える。

クュルナさんもまた、臨戦態勢に入っていた。

予定通り、俺が前で、クュルナさんは後衛で補助魔法を…。

俺は全力で魔力を溜め、それを『殺戮の堕天使』にぶつけようとした。

しかし。

「あぁ、そうなんですか」

「!?」

『殺戮の堕天使』は、俺の相手をすると見せかけて。

俺の横をあっさりと通り過ぎた。

まさか。

『殺戮の堕天使』の狙いは。

「クュルナさん!!」

「こっちのうるさいハエから、退治するとしましょう」

俺は、思わず血の気が引いた。

何で、まずクュルナさんから。

「クュルナさん!」

「だ…大丈夫、です…」

聖魔騎士団魔導部隊、大隊長の実力は、伊達ではなかった。

クュルナさんは、咄嗟の攻撃にも、ギリギリのところで防御魔法を展開させていた。

しかし、完全に受けきれた訳ではない。

「あれ?一撃で倒そうと思ったんですが…。意外に堅いですね、あなた」

「言われるまでも…!」

クュルナさんは、炎魔法で牽制した。

この旗色は、良くない。

クュルナさんはあくまで後衛。戦うのは俺でなくては。

「俺を…先に倒してからにしろ!」

無理矢理、クュルナさんとナジュ・アンブローシアの間に割り込んだ。

しかし。

「勇ましいですね。でも、あなたの思い通りにはさせません」

「…!?」

ナジュ・アンブローシアは、あくまで目標を変えなかった。

どうして、そうもクュルナさんを先に…!

「クュルナさん!」

「っ…大丈夫です!」

怒濤のように繰り出される攻撃を、クュルナさんは防戦一方で守っていた。

大丈夫じゃないことなんて、見れば分かる。

弱そうな方から、先に倒そうとでも言うのか。

「許さない…!」

倒す。絶対倒してみせる。

だが。

「吐月、逃げろ」

「…!?」

ベルフェゴールが、俺に信じられないことを言った。