「ねぇ、リリス」

「なぁに?ナジュ君」

あの日の夜、いつものように、僕とリリスは同じベッドに寝ていた。

「リリスは、魔物なの?」

回りくどい言い方はしなかった。

イエスと言われようがノーと言われようが、どちらでも構わなかったから。

「うん、そうだよ」

リリスは、あっさりと認めた。

そう。

僕はあの日、自分の知らぬ間に、魔物と契約していたのだ。

リリスは、定期的に僕の首に口をつけて、血を啜っていた。

それまでは、特に気にしていなかった。

その行為が、異常だとは思ってなかったから。

リリスと最初に会ったときもそうされたし、それからも定期的に、リリスは僕の血を求めた。

嫌ではなかった。

リリスが僕に望んでることがある。リリスが僕を求めている。

ならば、他に何の理由がある?

リリスが僕の傍にいてくれる。その代償が、僕の血だと言うのなら。

好きなだけ飲んでくれれば良い。

まぁ、死ぬほど飲まれたら、死んでしまうのだが。

学校で、この世に魔物と呼ばれる存在がいると、教えられるまで知らなかった。

これでようやく、リリスが何者なのか分かった。

「嫌いになった?私のこと」

「ううん」

リリスが何者でも、僕にとってはどうでも良かった。

ただ、確認したかっただけだ。

むしろ、ホッとした。

魔物だったら、きっと人間みたいに、あっさり事故や病気で死ぬことはないだろう。

契約している限り、リリスは僕の傍にずっといてくれる。

それが分かって、安心した。

リリスがいなくなることが、僕にとって一番の恐怖だった。

そう、恐怖。

僕はその頃、かつては感じることさえ出来なかった、色んな感情を覚えた。

楽しいこと。

嬉しいこと。

寂しいこと。

その寂しさが満たされること。

愛されたい人に愛されること。

愛したい人を愛すること。

笑い方。泣き方。

生きる意味も。理由も。

生まれてきた意味も。

何もかも。

彼女が、僕に全て教えてくれた。

リリスは、僕の世界そのものだった。

「…騙そうとしてた訳じゃないんだよ」

「うん」

「ただ、私、ずっと一人ぼっちだから…誰かと一緒にいたかったんだ」

「うん」

それだけで良い。

僕達が一緒にいる理由なんて、それだけで良い。

一人だと、寂しいから。

だから、一緒にいよう。

「…僕を残していかないって、約束してくれる?」

「うん。約束する」

あの夜、僕達は互いに約束した。