…まずは、僕が『殺戮の堕天使』の行方を探さなくては。

その役目を果たすのは、探索魔法の得意な僕だ。

学院長が、直々に僕を指名してくれた。

僕の探索魔法を、信じてくれているからだ。

僕は、限られた痕跡を辿り、『殺戮の堕天使』を探さなければならない。

その為には、まず…。

「…緊張してるのか?」

「え?」

いきなり話しかけられて、内心驚いた。

振り向くと、そこに無闇さんがいた。

そう、僕は今回、この無闇さんとペアを組んでいるのだ。

自分の仕事に集中するあまり、無闇さんの存在を忘れかけていた。

申し訳ない。

「緊張してるようだな」

「あ、はい…」

「…」

「…」

…正直、無闇さんと何を話して良いのか分からない。

同じ魔導部隊の大隊長同士で、会議などで顔を会わせることは何度もあった。

が、無闇さんと二人きりでの任務は、これが初めてだ。

故に、どう接して良いのか。

無闇さんは僕より年上だし、しかも召喚魔導師という、特殊な戦闘スタイルを持つ魔導師だ。

僕も、探索魔法だけでなく、他の魔法も一通りは使えるけれど…。

共通の話題というものが…。

むしろ、喋らない方が良いのか?

無駄な会話を嫌うタイプか?

でも、今、先に話しかけてきたのは無闇さんだし…。

会話そのものが嫌い、という訳ではなさそうだ。

えっと…。緊張してるかどうか、だったな。

それは…。

「…はい。緊張…してます」

「そうか」

杖を持つ手に、力が入るくらいには緊張している。

だって、僕が探して、『殺戮の堕天使』を見つけないと。

捜索組は、何処を探して良いのか分からない。

全ては、僕に懸かっているのだ。

頼りにされているのは嬉しいけれど、でも、その分プレッシャーが…。

すると。

「…そんなに、気負う必要はない」

無闇さんは、僕に向かってそう言った。

「え…?」

「例え見つけられなくても、それはお前の責任じゃない。ただ、自分に出来ることを、出来る限りやれば良いだけだ」

「…」

これには、少し驚いた。

無闇さんって、寡黙なイメージが強かったから。

こんなに喋ってくるとは。

「僕、そんなに緊張してるように見えます?」

「あぁ…。少し引っ張ったら切れそうな糸みたいに見える」

そんなに?

いや、確かに緊張はしているけど。

でも、それだって仕方ないじゃないか。

「僕が見つけられなかったら…。皆困るし…」

「…そんなことはない」

無闇さんは、きっぱりと言った。