ここまで決まれば、残りは考えずとも、おのずと分かってくる。

「エリュティア君は、無闇君と組んで、残留組に入ってくれる?」

「分かりました」

「了解した」

無闇は、吐月と同じく、召喚魔導師。

前線に出るアタッカーだ。

対するエリュティアは、どちらかと言うとサポート型の魔導師だ。

それにエリュティアには、王都で探索魔法を使い、それを捜索組に伝達するという、大事な役目がある。

故に、いざというときエリュティアを守る為にも、無闇を護衛につけておく。

これで安心だろう。

そして、残るは。

「イレースちゃんも、天音君と一緒に学院に残って欲しい」

「…分かりました」

俺とシルナは、言うまでもなく捜索組だ。

俺達が『殺戮の堕天使』への対処に頭を抱えている間でも、学院は通常通り授業が行われる。

元々イーニシュフェルト魔導学院の教師は、三人しかいないのだ。

その中の二人が抜けるときたら、どうやっても一人は残らなければならない。

イレースも、それは分かっているだろう。

しかし。

「そんな…。僕は、僕も捜索組に入れてください。例え一人でも、僕はあいつを…!」

天音は、そう言って食い下がった。

『殺戮の堕天使』に並々ならぬ憎しみを覚えている。

次会うときは、この手で、という気持ちは、誰よりも強いはずだ。

でも、だからこそ、なのだ。

「君は行かない方が良い」

「っ、どうして!」

「そうやって、感情的になってしまうからだよ」

「…!」

シルナは、珍しくキツい言い方をして突っぱねた。

シルナとて、天音の気持ちが分からない訳じゃない。

出来ることなら、仇を討たせてやりたいとも思ってるだろう。

でも、今回は…私情を挟まれては困る。

「君はまだ、正式に聖魔騎士団の魔導師になってる訳じゃない」

あくまでも、イーニシュフェルト魔導学院の食客扱い。

そもそも天音の場合、他の国を転々としていた為、ルーデュニア聖王国の戸籍さえ持っていないのだ。

そして、問題がもう一つ。

「『殺戮の堕天使』ともう一度対峙したとき、君は彼に勝つ自信がある?」

…シルナの性格的に、そこまでは言わないかなと思ったが。

今日のシルナは、容赦がないな。

それだけ、事態を重く見ているということなのだろう。

「…っ」

これには、天音も言い返せなかった。

…相性が悪いのだ。

いくら前向きに考えても、天音は前線で戦うアタッカーじゃない。

彼は敵を傷つけるより、味方を癒す方が適している。

それに…。

「…天音君が、『殺戮の堕天使』を憎んでる、その気持ちは分かってるよ」

だからこそ。

「君はきっと、彼に会えば、感情的になってしまう。冷静ではいられない」

「…」

言い返す言葉がないのだろう。

天音は、悔しそうに唇を噛んだ。

『殺戮の堕天使』の方も、天音に会えば、煽ってくるだろうしな。

わざと。天音の冷静さを欠く為に。

敵の罠に、まんまと嵌まる訳にはいかない。

「だから、君は学院に残って、出来るなら、イレースちゃんの補佐をして欲しい」

「…分かりました」

唇を強く噛み締めて、天音は了承した。

天音にとって、辛い決断だったに違いない。