「あのう…。失礼します…」

放課後。

シャーロット・エフィラムのルームメイト、ニーナ・メルビンが、学院長室を訪ねてきた。

入学したばかりで、いきなり学院長室に名指しで呼び出されたことで。

ニーナ・メルビンは、気の毒なくらい緊張しているようだった。

これが高学年になるにつれて、「学院長先生~。お菓子もらいに来ました~」なんて気軽に入ってくるようになるんだけどな。

しかもそんな生徒に、「良いよ~!ついでにお茶も飲んでく?」と答えるシルナもシルナなんだけど。

しかし、まだ入学して間もない彼女は、これから尋問でもされるのかとばかりに、カチンコチンに緊張していた。

歩き方がロボット。

「あぁ、よく来てくれたねぇニーナちゃん。まぁまぁ、座って」

「は、はひっ…」

噛んでる。

「まずお茶を用意するからね。ニーナちゃん、ピーチティー好きかな?」

「は、はい」

「良かった!この間出張行ったときのお土産に、良いの買ってきたんだよね~」

などと言いながら、シルナはピーチティーを用意した。

更に。

「はいっ、ケーキもあるよ~どれが良い?」

わざわざこの為に用意した、ケーキの箱を差し出す。

中には、ショートケーキ、チョコケーキ、チーズケーキの三種類のケーキが。

だから、何で俺の分まで買ってくるの?

要らないっての。

「好きなの選んで良いよ~」

「…え、えっと…」

いきなり学院長室に呼ばれて、お茶を出されたことで、既におろおろしているのに。

そこにケーキまで持ってこられて、戸惑いまくりのニーナ。

しかも。

「私チョコ食べたいなー…。いや、どれを選んでくれても良いよ。…チョコ欲しいなー」

またちらっちらっしてやがる。

見たか?この大人気のなさ。

そこは生徒に好きなの選ばせてやれよ。脅迫してんじゃねぇか。

「…ニーナ。チョコケーキが良いですって言ってやれ」

「酷い羽久!」

お前があまりに大人気ないからだろ。

「本当に好きなの選んで良いぞ。シルナなんか、毎日チョコ食ってんだから、わざわざ譲らんで良い」

毎日どころか、毎時間食ってるくらいだから。

「え、えっと…。じゃあ、その…。チーズケーキで…」

「…」

…健気だな、ニーナ。

遠慮しなくて良かったんだぞ。

あとシルナ。嬉しそうにするな。

「じゃあ羽久、ショートケーキとチョコケーキどっちが良い?私はチョコケ、」

「俺はチョコケーキ」

「羽久ぇぇぇぇ」

ニーナは健気で優しいけど。

俺は容赦しないからな。

そんな俺達の、いつものやり取りを見て。

「…くすっ」

ニーナは、思わず笑っていた。

「…あっ、済みません」

ハッとして笑みを消すニーナ。

「いや…」

緊張が、ちょっと解けたようで何より。