「…それを消したのは、君だね?」

シルナ・エインリーは、教壇で憐れに引き裂かれた自分の…分身の残骸を横目で見た。

「えぇ、そうです」

「…どうして、私の生徒達がああなってるの?」

ああなってるの、とは。

教室の後ろに固められて、両手を上げさせられてることか。

その理由は簡単。

「あなたに対する、人質の為です」

「分かった。可能な限り、君の要望に従う。だから、人質を解放して欲しい」

「…あはは」

全く迷わなかったね。

迷わず、生徒の命を選んだ。

「可能な限り、ですか…。じゃあ今ここで切腹してくださいって言ったら、してくれるんですか」

「…」

まんざらでもない、って?

本当にあなたは、あなたという人は…。

…ヴァルシーナが、夢中になる理由が分かった。

なんて滑稽な茶番劇。

何より愉快なのは、その道化の渦中に僕が巻き込まれていることだ。

「残念ですが、人質は解放しません」

「…」

「それから、もう一つ…。あなたに良いことを教えてあげます」

僕は、ポケットの中のボタンを一つ、押した。

瞬間、校舎内に爆発音が聞こえた。

「!?」

あぁ、驚いてますね。

「この校舎内、各所に爆弾を仕掛けさせてもらいました」

「君は…!」

「大丈夫ですよ、今のは威嚇です。今爆破したのは無人の空き教室なので」

死者はおろか、怪我人すら出ていないはずだ。

いつの間にそんな爆弾を仕掛けたのか、気になるか?

ほら、例の避難訓練のときとか。

夜中に校舎に忍び込んだりね。

「でも、次はありません。次に爆弾が爆発するとき、あなたの大好きな生徒達が死にます」

「…!」

憤ってますね。

怒ってますね。

でも。

あなたが怒れば怒るほど、僕はその姿が、滑稽で滑稽で仕方ない。

「…君は何の為に、こんなことを?」

シルナ・エインリーは、苦虫を噛み潰したような顔で、僕に問いかけた。

こんな表情を見るのも、初めてだな。

うっかり教えてあげたくなる。

僕が、何をしようとしているのか。

「…」

でも、教えてあげない。

意地悪だと思うだろう?

いや、むしろ怒らせただけか。

「君が何を考えてるのかは分からない。でも、今すぐこんなことはやめなさい」

毅然として、シルナ・エインリーはそう言った。

「今ならまだ間に合う。私に話して欲しい。君が、こんなことをしなければならなかった理由を」

「…」

「君が何を抱えていようと、私が君の重荷を降ろしてあげるから。必ず。君も彼らも同じ、私の生徒の一人…」

「…あはは…」

「…?」

なんて滑稽な。なんて滑稽な言葉だろう。

本当に、この場にヴァルシーナがいたら良かったのに。

きっと、この校舎を吹き飛ばすほどの、大乱闘を繰り広げることになっただろう。

想像しただけで、愉快で堪らない。