この場にいる全員が、知っている。

シルナ・エインリーの、見せかけの仮面を。

だから、ここにいる。

シルナ・エインリーが、自分勝手に作り上げたこの世界を、「破滅」させる為に。

「…シルナ・エインリーと羽久・グラスフィアが、『禁忌の黒魔導書』について調べているそうだが」

と、切り出したのはレイモンドである。

あぁ…あったね、そんなこと。

「それについては、何処まで進んでる?」

「さぁ。シルナ・エインリーに聞いてみてください」

「…」

レイモンドは、険しい顔でこちらを睨んだ。

あー怖い。

「結局、意味がないではないか」

「何が?」

「アンブローシアを、イーニシュフェルト魔導学院に潜入させたことだ」

ほう。

折角僕を潜入させたのに、肝心な部分の情報は、何も得られてない。

観察出来るのは、シルナ・エインリーの分身と、空っぽの羽久・グラスフィア。

あとは、禁書の捜査には関係のないイレース・クローリアくらい。

これだけじゃ、リスクばかりが上がるばかりで、成果に乏しい。

はぁ、そうですか。

僕の苦労も知らないで、良い気なものだ。

だったら、僕の代わりに行ってくれよ。

それが出来るものならな。

「僕だって努力してるんですけどねぇ」

深夜、校舎の中をうろついたり。

学院内の図書室にも、忍び込んだ。

勿論、施錠された地下図書室に、だ。

シルナ・エインリーが隠している魔導書の類を、探ってやろうと思って。

とはいえ、ルーデュニア聖王国にある貴重な魔導書は、基本的に国立図書館の地下に納められている。

お陰で、危険に身を晒して図書室に忍び込んだというのに、大した情報は得られなかった。

まぁ、本当にヤバい魔導書を、あの狡猾なシルナ・エインリーが図書室なんかに隠しておく訳がない。

ちゃんと、自分のお膝元に置いてあるさ。

そういう意味では、確かに僕のスパイ活動は無駄なのかもしれないけど。

「どうします?リーダー」

僕は、ヴァルシーナに問い掛けた。

「なんか僕、努力してるのに、皆さんが思ってるほど成果を出せてないみたいなんですけど。やめます?」

一度入ったら、出るのは難しいけどな。

あの学院長のこと、生徒が退学を希望しようものなら、全力で引き留めにかかるに違いない。

やめるなら、それなりの「口実」を用意しなくては。

あの学院長を騙すのは、なかなかに難しいぞ。

「正直、僕もこれ以上長居しても仕方ないと思ってるんですけど」

と、切り出した。

「いくら観察したって、分身と空っぽを見ても意味がない。イレース・クローリアから得られる情報は少ないし、何処ぞの優秀な魔導師とやらは大したことがないし…」

「…」

「…これ以上、イーニシュフェルト魔導学院にいる必要、あります?」

正直、僕も疲れてきたんだよね。

イーニシュフェルト魔導学院で、呑気な「学生」を演じるのは。