「生徒達がいないと、ここはまるで別世界だよ…」

ぽつりと呟くシルナ。

…まぁ、その気持ちは、分からなくもない。

普段は、学院の何処にいても、生徒達の話し声や笑い声が聞こえてきた。

しかし。

今や校舎は空っぽで、静まり返り。

耳を澄ませても、物音一つ聞こえない。

つい一昨日まで聞こえていた、生徒達の喧騒は何処へやら。

イーニシュフェルト魔導学院は、もぬけの殻である。

ついでに、学院長もな。

「はー…。生徒がいないとなーんにもやる気出ない…」

「…」

夏休みになると、大体こんな感じだ。

お前な。

生徒達は、夏休みと言っても、それぞれ各教科で宿題頑張ってるんだぞ。

それなのに、学院長がこの体たらくとは。

生徒に示しがつかん。

でも、今はその生徒がいないから、怠け放題。

「暇だなー…。シュニィちゃんのとこ遊びに行こうかなー」

こんなこと言ってる始末。

「シュニィは今妊娠中だろ」

身重のシュニィのもとに、こんな暇をもて余した学院長が訪ねていくなんて。

迷惑以外の何物でもない。

「そっか…。じゃあ吐月君のところにでも」

何故、お前は誰かのところに遊びに行こうとするのか。

寂しがり屋か。

寂しがり屋だったな。そういえば。

「よし!吐月君と遊ぼう。ほら、羽久も一緒に」

何で俺まで。

ってか、吐月に迷惑だろう。いきなり来られたら。

全く、どうしてくれようか。

このままじゃ、夏休みが終わって生徒達が帰ってくるまで、この有り様だ。

まさか生徒達も、自分達が帰省している間に、学院長がこんな自堕落な生活してるとは思ってないだろうな。

生徒の方が、余程立派というものだ。

この学院長に比べたらな。

とりあえず、いきなり訪ねたら迷惑なので、ここはシルナをふん縛っておいて。

吐月に連絡を入れ、了解を得られたら、まぁ遊びに行かせてやっても良いだろう。

向こうは多分、迷惑だろうけど。

お前は暇でもな、聖魔騎士団は忙しいんだよ。

「大体、シルナ…」

と、言いかけた、そのとき。

「失礼しますよ、学院長」

我が校の女神が、降臨した。