「君、ヘレーネちゃんだよね?」

「へっ?あ、は、はい」

シルナはまず、右の少女に声をかけ。

そして、左の少女に向かって。

「そして君は、ロジーちゃん!」

「は、はいっ」

うんうん、とシルナは頷いた。

「ヘレーネちゃんは確か、入学試験のとき、実技で炎魔法を見せてくれたよね」

「え?は、はい…」

「ただ火力だけが大きい炎魔法じゃなくて、魔力の扱い方が繊細で上手な子だな~と思ったんだよ。そうそう」

「…?…??」

ヘレーネちゃん、頭の上に疑問符が一杯。

その気持ちはよく分かる。

「それからロジーちゃん!ロジーちゃんは空間魔法を見せてくれたよね」

「は、はい…」

「いやぁ、その歳で空間魔法を使える子は珍しいなと思ってねぇ。そうだったそうだった」

「…??」

ロジーちゃんの方も、首を傾げていた。

…こいつ、入学生全員の顔と名前だけじゃなく。

入学試験のときに見せてもらった実技魔法の内容まで、詳細に記憶してやがる。

ごめんな。さっき睨んでるように見えたのは、別に怒ってる訳じゃなくて。

ただ思い出すのに、ちょっと時間がかかってただけなんだよ。

「二人共一年生だよね。学院にはもう慣れたかな?」

「えっ、あっ…」

「何か困ったことや、相談したいことがあったら、いつでも学院長室に来てね。美味しいおやつ用意して待ってるから」

「…」

二人共ぽかーん。

ごめんな。

こんな奴なんだよ。

すると、廊下の奥の方から。

「あっ、学院長せんせーい!」

この春から五年生になったとある女子生徒が、向こうからシルナを見つけて、ぶんぶん手を振った。

ヘレーネとロジーは、あの学院長に向かって軽々しく手を振るなど、と驚愕していたが。

シルナの方は、全く気にせず。

むしろぶんぶん手を振り返して。

「あぁ、リノンちゃん!やっほー」

「先生!私、春休みの間実家に帰って、地元ですっごく人気のチョコレートのお店で、先生にお土産買ってあるんですよ」

「えぇ、本当!?」

この、シルナの目の輝きよ。

「明日にでも、学院長室に持っていきますね!」

「うん!美味しいお茶用意して待ってるね!ミナナちゃんとエリザベスちゃんも呼んであげてね」

「えへ、はーい!」

…生徒の名前のみならず、生徒の交遊関係まで、完璧に把握している学院長である。

しかも、チョコレートに釣られてやがる。

「…こんな奴なんだよ、シルナ。だから、怖がらなくて良い」

俺は、ぽかーんとしているヘレーネとロジーに、そっと言った。

君達も、じきに慣れると思うよ。

な?威厳も糞もあったもんじゃないだろ。

まぁ、それがイーニシュフェルト魔導学院の。

そして、シルナ・エインリー学院長の良さ、なのかもしれないけど。