「報告は?」

「うーん…」

報告…報告なぁ。

一通り考えを巡らせ、そして答えが出た。

「…特にないです」

「…」

…何だ、この沈黙。

店員に、この二人、またファミレスで別れ話してる…って思われてしまうじゃないか。

そして、僕のスポンサーが言うには。

「…何の為に、危険を冒してお前をイーニシュフェルト魔導学院に潜入させたと思ってる」

「…」

…と、言われましてもねぇ。

僕は、アイスティーをストローでかき混ぜた。

「僕はあくまで、一人の生徒でしかない訳で…」

「…」

「つまり、そうそう特ダネを持ってこられる訳じゃないんですよ」

見破られたから危険だから、妄りにシルナ・エインリー本人に接触する訳にはいかないし。

羽久・グラスフィアとも、会う機会がない。

何せ、彼が担当する時魔法の授業は、僕ら一年生はまだ受けられない。

大体あの人は空っぽだから、見ても仕方がない。

「あ、でも」

僕は、ふと思い出した。

「本当なのか嘘なのか、分かりませんけど…。学院に不審者が侵入したそうですよ」

「不審者?」

まさかあの学院に、僕以外の不審者が侵入するとは思ってなかった。

「まぁ、あくまで噂ですけど。少なくとも、避難訓練ではない緊急放送が流れたのは事実です」

「…不審者…誰のことだ」

「それが分かったら苦労してませんよ」

もしかしたら、本当は不審者なんていなかったのかも。

まぁ僕の勘だと、事実なのだろう。

何かあったとしても、何事もなかったかのように振る舞うのは、あの学院長の十八番だからな。

生徒に心配はかけたくない、とか言って。

随分お優しいことで。

「あぁ、それと…今度運動会があるんですけど」

「運動会だと…?」

眉間に皺を寄せる、僕のスポンサー。

いや、僕に怒られても。

「学院長のお気に入りイベントだそうですよ」

「…あの男、そんな下らないことに…」

確かに下らない。

魔導学院に、何故運動会が必要なのか。

理解に苦しむ。

それでもやりたいと言うのだから、シルナ・エインリーにはシルナ・エインリーなりの、考えがあるのだろう。

文句を言うなら、本人に直接言ってくれ。

「当日は、学院が開放されて、父兄も見に来られるそうですよ」

「それが?」

「見に来たらどうです?」

「…」

スポンサー様は、元々険しい顔を更に険しくさせた。

折角誘ってあげたのに。

「来たくなければ別に…」

「…考えておく」

…おぉ。

てっきり、「誰が行くか」と吐き捨てるかと思ったのだが。

見たくなったか。仇の姿を。

「あなたを見ても、敢えて知らない振りをしますよ、僕は」

「それで良い。あくまで私とお前は他人だ」

かと言って、味方でもないってね。

なんともいじらしい間柄じゃないか。

お互い、ただ利用し合っているだけなんだが。