天音がいる手前、こんな話はしたくないというのが本意だが。

こればかりは、見過ごせない。

その『殺戮の堕天使』とやら、一体何の目的があって、村人を殺害したのだ?

普通、村を襲う理由…色々あるとは思うが。

魔導師というものは、普通に生きていれば、食うに困るってことはない。

食う必要がない訳だから。

昔の部族戦争みたいに、相手の土地が欲しくて襲った…とは考えにくい。

「略奪…が目的だった訳じゃないんだよね」

「はい…。彼が何かを盗む様子はありませんでした。それに…あの村に、盗むものなんて…」

…ないわな。

焚き火組んで、畑で野菜育ててるような、原始的な村に。

売れば金になる貴金属ががっぽり、とは考えにくい。

それに、本当に略奪が目的なら、皆殺しにする必要はない。

むしろ、住人を人質に取って、有り金全部出せ、と脅した方が効果的だ。

なら、考えられる目的は…。

「…多分、だけど…」

シルナは、言いにくそうに…しかし、確かに口にした。

「…君が、目的だったんだろうね」

「…僕も、そう思います」

天音も、否定せずに頷いた。

『殺戮の堕天使』の目的は、金でも、土地でも、村人の命でもない。

村で匿われていた、天音という魔導師。

天音に会うことが、『殺戮の堕天使』の目的だったのだ。

そして、天音を自分の前に引っ立てる為に、村人の首を…。

…なんて、汚いやり口だ。

天音に会いたいなら、天音に会いたいと、堂々と会いに来れば良いじゃないか。

何故、罪のない村人を殺す必要があったのだ。

天音の言う通り、そいつはとんでもない悪魔だ。

「本人も、僕に会うのが目的だったというようなことを言ってましたから…」

「…」

『優秀な魔導師がいると聞いて来た。』

『歯応えがあると思っていたのに残念だ。』

これらの発言を鑑みるに。

『殺戮の堕天使』の目的は、魔導師としての天音に会うこと。

しかも、この言い方じゃ…まるで、天音を試そうとでもしていたかのようじゃないか。

そして、一通り試して、期待外れだとばかりに天音を見捨て…。

…何故、そんなことを。

「…僕が、あの村に長く留まってしまったが為に…村人を巻き込んでしまって…」

天音は、悔しそうに両手の拳を握り締めた。

…天音にとっては、やりきれない思いだろう。

自分が村人の好意に甘え、長居してしまったから…天音という魔導師が村にいることがバレた。

『殺戮の堕天使』が、天音の存在を聞き付けたのだ。

だが、それは…あくまで結果論でしかない。

「…君のせいじゃないよ、天音君」

シルナが、天音の肩に手を置いた。

「憎むべきは、その『殺戮の堕天使』だ。君は命を救い、救おうとしただけ。殺された人達は、君に感謝こそすれ、憎みなんてしてない」

「…シルナ・エインリーさん…」

「私はそう思うよ」

「…」

天音は、力なく頷いた。

…そうか。

そんな経緯で、あんなぼろぼろの姿になって、イーニシュフェルトに…。

「もし『殺戮の堕天使』が、ルーデュニア聖王国に潜り込んでいるのなら…。私達は、無視出来ない」

『殺戮の堕天使』などという、危険極まりない魔導師。

野放しにしておけば、また何をしでかすことか。

「すぐに、聖魔騎士団に連絡しよう。危険人物として、捜索を…」

「…シルナ・エインリーさん」

天音は、はっきりとシルナの方を見て言った。