天音…天音、か。
そんな名前の魔導師に、覚えはないが。
俺じゃなくて…「前の俺」だったなら、何かを知っていたかもしれない。
俺は、前の俺より長くシルナと一緒にいる訳じゃないからな。
しかし。
「…天音君…か。聞いたことがない名前だけど…」
どうやら、シルナも初対面らしい。
「私は君を知らないけど、でも君は、私を知ってるんだね?」
「…イーニシュフェルトの聖賢者、と」
まぁシルナの名前は有名だからな。
少しでも魔導理論を齧ってる者なら、誰でも知ってる。
だが、大抵の人が知っているのは、「イーニシュフェルト魔導学院の学院長」としてのシルナ・エインリーだ。
敢えて「イーニシュフェルトの聖賢者」という、もう一つの二つ名でシルナを呼ぶとは。
こいつ、本当に…何者なんだ。
「いかにも、私がイーニシュフェルトの聖賢者…。シルナ・エインリー本人だよ」
「…」
「私に何か用かな?」
…あなたの命が欲しい、とか。
言われたらどうするつもりなんだ。
その時に備えて、俺とイレースは、こっそり杖に手を伸ばした。
しかし。
「…」
天音という魔導師は、両手をベッドに着いた。
何をするのかと、咄嗟に警戒したが。
何のことはない。
彼は、何とかして自分の身体を起こそうとしているのだ。
「うっ…く…」
しかし、魔力の尽きた身では、それすらも苦しいらしく、苦悶の呻きを漏らした。
「無理しないで。まだ起き上がっちゃ駄目だよ」
シルナは、慌てて天音を止めた。
「君、死んでてもおかしくなかったんだよ」
そして、ハッキリとそう告げた。
そうだ。それくらい酷い魔力の消耗だった。
こんな弱った相手に、何が出来る…。
途端に彼が憐れに思えて、俺は杖を収めた。
「それも…全部、あいつの…」
天音は、苦しげにそう漏らした。
…あいつ…?
「君に、悪意がないことは分かった」
シルナは、再度ベッドに天音を横たわらせながら、そう言った。
「話は、魔力がもう少し回復してからにしよう。君のことは誰にも言わない。聖魔騎士団にも黙ってるから」
つまり、学院で匿う、と。
「でも…僕は…」
「良いから。まずは身体を治さないと」
「…」
天音は、何も言わなかった。
と言うか、言えなかったのだ。
これ以上言葉を発することさえ、今の彼には出来なかった。
やがて、天音は精根尽き果てたのか、濁った目を閉じた。
そんな名前の魔導師に、覚えはないが。
俺じゃなくて…「前の俺」だったなら、何かを知っていたかもしれない。
俺は、前の俺より長くシルナと一緒にいる訳じゃないからな。
しかし。
「…天音君…か。聞いたことがない名前だけど…」
どうやら、シルナも初対面らしい。
「私は君を知らないけど、でも君は、私を知ってるんだね?」
「…イーニシュフェルトの聖賢者、と」
まぁシルナの名前は有名だからな。
少しでも魔導理論を齧ってる者なら、誰でも知ってる。
だが、大抵の人が知っているのは、「イーニシュフェルト魔導学院の学院長」としてのシルナ・エインリーだ。
敢えて「イーニシュフェルトの聖賢者」という、もう一つの二つ名でシルナを呼ぶとは。
こいつ、本当に…何者なんだ。
「いかにも、私がイーニシュフェルトの聖賢者…。シルナ・エインリー本人だよ」
「…」
「私に何か用かな?」
…あなたの命が欲しい、とか。
言われたらどうするつもりなんだ。
その時に備えて、俺とイレースは、こっそり杖に手を伸ばした。
しかし。
「…」
天音という魔導師は、両手をベッドに着いた。
何をするのかと、咄嗟に警戒したが。
何のことはない。
彼は、何とかして自分の身体を起こそうとしているのだ。
「うっ…く…」
しかし、魔力の尽きた身では、それすらも苦しいらしく、苦悶の呻きを漏らした。
「無理しないで。まだ起き上がっちゃ駄目だよ」
シルナは、慌てて天音を止めた。
「君、死んでてもおかしくなかったんだよ」
そして、ハッキリとそう告げた。
そうだ。それくらい酷い魔力の消耗だった。
こんな弱った相手に、何が出来る…。
途端に彼が憐れに思えて、俺は杖を収めた。
「それも…全部、あいつの…」
天音は、苦しげにそう漏らした。
…あいつ…?
「君に、悪意がないことは分かった」
シルナは、再度ベッドに天音を横たわらせながら、そう言った。
「話は、魔力がもう少し回復してからにしよう。君のことは誰にも言わない。聖魔騎士団にも黙ってるから」
つまり、学院で匿う、と。
「でも…僕は…」
「良いから。まずは身体を治さないと」
「…」
天音は、何も言わなかった。
と言うか、言えなかったのだ。
これ以上言葉を発することさえ、今の彼には出来なかった。
やがて、天音は精根尽き果てたのか、濁った目を閉じた。


