幸いなことに。

ナジュ・アンブローシアという一年生の男子生徒は、すぐに見つかった。

と、言うか。

こちらが探すまでもなく、よたよたと玄関に向かって歩いてきていたのである。

「ナジュ君!?大丈夫!?」

「あ…。学院長先生…」

彼は壁づたいに、片足を半ば引き摺るようにしてよたよた歩いていた。

「足、どうしたの?」

「済みません…。避難してるときに…誰かとぶつかって…転んでしまって」

そういうことだったのか。

それはまた…不運な。

ぶつかって転んだ、と言うよりは…。多分、突き飛ばされちゃったんだろうな。

勿論、突き飛ばした方も無意識で、自分が誰かを突き飛ばしたなんて思ってもいないだろう。

人間、慌てていれば、周りも見えなくなる。

良い教訓だな。

この生徒には不運だったが。

「そうだったんだね。君が一人足りないから、心配してたんだよ」

「済みません…。本当に、ご迷惑おかけして…」

「良いから。回復魔法、かけるね。ちょっとじっとして」

シルナは杖を手に、得意の回復魔法をナジュ・アンブローシアの足にかけた。

「大丈夫?痛くない?」

「はい、ありがとうございます」

恐らく、少し挫いてしまっただけなのだろう。

シルナの回復魔法で、あっという間に良くなったようだ。

「歩ける?校庭まで」

「はい、もう大丈夫です。本当に…ご迷惑おかけしました」

「いやいや、良いんだよ。これが訓練で良かった。本当に不審者が入ってきてたら、どうなってたか」

シルナは、心から安堵したようにホッと肩を撫で下ろしていた。

「校庭でイレースちゃ…クローリア先生がお話ししてるから、自分で行ける?一年生だから、一番端の列に」

「はい、大丈夫です。ありがとうございました」

ナジュ・アンブローシアは笑顔でぺこりと頭を下げて、校庭に出ていった。

…。

「…この場合、あいつのクラスも罰掃除になるのかな」

「うーん…。不可抗力だと思うけどなー…」

しかし。

遅刻は遅刻、とのイレースの一言で。

後日、一年Aクラスにも、罰掃除が課せられたとか。

さすがは、ラミッドフルスの鬼教官様である。

もう、これからの避難訓練は全て彼女に一任するとしよう。

シルナなんかより、百倍は頼りになる。