ざっと、校庭を見渡してみる。

校庭には、ほぼ全員の生徒が集まっているように見えるが…。

「一年Aクラス、三年Bクラス、四年Bクラス、五年Cクラスが間に合っていませんね」

イレースは、点呼の報告を記したメモ帳を片手に言った。

あー…。やっぱり、間に合わないクラスがいたか。

そりゃしょうがないよな。

普段の避難訓練とは、緊張感が違い過ぎるもん。

校庭には出ているのだけど、整列と点呼が、僅かに間に合わなかった。

間に合わなかったと言っても、数秒、数十秒単位だ。

何分も遅れた訳じゃない。

シルナだったら、こんなの誤差の範疇だと見過ごしただろうけど。

ラミッドフルスの鬼教官は、一秒たりとも許しはしない。

実際、災害の現場では、その一秒が命取りになるからな。

ここは妥協しない。

「ま、まぁ良いじゃない。皆無事だったんだから…」

横から、シルナがそーっと口を挟むも。

「駄目です。私は妥協しません。遅刻は遅刻。しっかり罰掃除は受けてもらいます」

イレース、容赦なし。

シルナも、何も言い返せなかった。

こういうときは、イレースの方が強いよなぁ。

とにかく、初めての本格的な避難訓練にしては、皆頑張った方じゃないか…と。

思った、そのとき。

一年Aクラスのクラス委員が、血相を変えて走ってきた。

「クローリア先生!」

クローリア先生とは、イレースのことである。

「何ですか?」

「一人…一人足りません!何処にもいないんです!」

「!?」

これには、俺とシルナだけではなく、イレースも驚いて目を見開いた。

「一人足りないですって…?」

「き、教室で整列したときにはいたはずなんです。それなのに、な、何度数えても…」

一年Aクラスのクラス委員は、泣きそうな顔で訴えた。

クラス委員とはいえ、一年生で、初めての避難訓練である彼らを、深く追及して責め立てても無駄である。

「いない生徒は誰です?」

「あ、アンブローシア君です。ナジュ・アンブローシア君…」

ナジュ・アンブローシアだな。分かった。

「イレース、ここで生徒を見ててくれ。俺とシルナで探してくる」

「分かりました。お願いします」

何らかの事情で、クラスメイト達とはぐれてしまった可能性がある。

「ほら、行くぞシルナ!」

「う、うん!」

実際の非常時にも、起こり得るアクシデントだ。

これが避難訓練で良かった。

俺とシルナは、急いで校舎の中に戻った。