愛しい君へ


その日、玲司さんが帰宅したのは0時を過ぎてからだった。
最近はこのくらいの時間の帰宅が増えていた。

「おかえりなさい。」

そう言いながら、いつも通り玲司さんからバッグを受け取る。

玲司さんは「今日、健診だったんだろ?性別は分かったかい?」と早速聞いてきた。

わたしは玲司さんのあとに続き、リビングに入ると、ソファーに座りネクタイを外す玲司さんを見つめた。

玲司さんはわたしからの返答がない為、更に「で?どうだったんだ?」と訊いてきた。

玲司さんのバッグを持つ手に力が入る。
わたしは意を決して「、、、女の子でした。」と答えた。

すると、玲司さんは大きな溜め息をつき、「ダメだったかぁ。」と呟いた。

「じゃあ、その子は堕ろしなさい。僕の知り合いの医師にお願いしておくから。周りには、流産したと言うんだよ。」
「でも、この子は元気にわたしのお腹で育ってくれてるんですよ?」

わたしがそう訴えると、玲司さんは冷たい目をして「ひより、君に拒否権はないと言ったはずだ。僕の言う事をきいていれば良いんだよ。分かったね?」と言った。

そして、立ち上がると上着をソファーに脱ぎ捨て、バスルームに向かう。

そんな簡単に堕ろせだなんて、、、
せっかく授かった命なのに、、、

わたしは玲司さんがバスルームに入り、シャワーの音を確認すると、涙を流しながら必要最低限の物をバッグに詰め込み、最後にツガイのフクロウの置き物を手に取り抱き締めると、そっと22階の部屋を出た。

そして、1階まで下りると、エントランスにある女子トイレの個室に入った。

それから、ある人に電話をかける。
3コール鳴ったあとでスマホの向こうから、「もしもし?ひより?こんな時間にどうした?」と、安心する声が聞こえてきた。

わたしは溢れる涙を必死に堪えながら、涙声で言った。

「匡、、、助けて、、、。」