きみは永遠の小悪魔【完】

胸中で溢したつもりの言葉は、いつの間にか千景くんの足元に転がっていた。短い返事が耳の先を掠める。千景くんが私に歩み寄った。隣に立つ。


「ん」

「いつから?」

「去年」


煙草を吸い始めたのは最近らしくて。どうやら、さっきも吸ってたみたい。向こう側に小さな喫煙スペースがあるのを発見した。


「悪い。匂う?」

「全然わかんないよ。シャンプーの香りがする」

「素でそういうこと言うのやめろや」

「わ…っ。わわ」


コートのフードが私の頭を覆った。千景くんに上から被せられて、視界が半分隠れる。

静かに、呆れたように、ため息混じりの声音で怒られた。「ごめんね」と反射的に謝り、フードを脱いだ。

吐いた息が白い弧を描いて二人の間を通り抜け、じ…と見つめられる視線に肩が上擦る。

「なんでしょうか」口籠もりながらおずおず尋ねると、千景くんは何も答えずに、私の顔をゆっくり覗き込んだの。

千景くんの、ふわふわな髪が冷たい風に攫われて目の前で揺れる。

なに、言われるんだろう。
ぎゅっと身構えたのに、


「ふみは前髪切った?」


思いもよらない一言を貰ってしまった。


「……うん!」

「どんだけ切ったの?」


親指と人差し指に隙間を作り“ちょっと”“このくらい”だとジェスチャーで伝える。


「千景くんすごいね。正解。すぐわかっちゃった」

「ふみのこといつも見てるから」