「すっ、すいませんでした」
ヨロヨロと足元をふらつかせながら、男の人は振り返りもせずに去って行った。煩い鼓動はようやく一定のリズムに戻り、静まっていく。
立ち上がった彗は背中を向けた男の人に、睨みを効かせるが、しばらくしてから「…ったく」と、短い息を吐いて私を見やった。
「どこ触られましたか」
「何も。……未遂だった」
震えた指先を彗が絡めとる。
鼻を啜った瞬間、目尻に温かい涙が乗るのがわかった。張り詰めた緊張と、怖さに震えた空気が解けたのか、爽やかなシトラスの香りが冬の冷たい匂いに混ざり、ふわりと漂う。
胸が切なく締まった。
「ありがとうございます」
「……」
彗と繋がった指を、ぎゅうっと大事に握り返したの。助けてもらったお礼は言い足りなくて。
「ありがと、ごぜ…ます。……ん。ありがとうございます」と、一番大切にしなきゃいけない言葉を、大好きな人に噛んで渡してしまった。
『ふみらしい』で済まされるなら、許してほしいです。
首筋まで染まる赤を、彗がじ…と見つめるから話をそらした。
「……なんで場所が分かったの?」
「GPSです」
「へ?」
いつしかのケンカが勃発したとき、オフにしたはずなのですが。私の操作ミス?
瞬きをする私に、彗は苦い表情を浮かべて綺麗な瞳を伏せる。
「すいません。追跡できるようにしました」
「えっ(いっ、いつの間に!?……ええと、えっと…)」
ヨロヨロと足元をふらつかせながら、男の人は振り返りもせずに去って行った。煩い鼓動はようやく一定のリズムに戻り、静まっていく。
立ち上がった彗は背中を向けた男の人に、睨みを効かせるが、しばらくしてから「…ったく」と、短い息を吐いて私を見やった。
「どこ触られましたか」
「何も。……未遂だった」
震えた指先を彗が絡めとる。
鼻を啜った瞬間、目尻に温かい涙が乗るのがわかった。張り詰めた緊張と、怖さに震えた空気が解けたのか、爽やかなシトラスの香りが冬の冷たい匂いに混ざり、ふわりと漂う。
胸が切なく締まった。
「ありがとうございます」
「……」
彗と繋がった指を、ぎゅうっと大事に握り返したの。助けてもらったお礼は言い足りなくて。
「ありがと、ごぜ…ます。……ん。ありがとうございます」と、一番大切にしなきゃいけない言葉を、大好きな人に噛んで渡してしまった。
『ふみらしい』で済まされるなら、許してほしいです。
首筋まで染まる赤を、彗がじ…と見つめるから話をそらした。
「……なんで場所が分かったの?」
「GPSです」
「へ?」
いつしかのケンカが勃発したとき、オフにしたはずなのですが。私の操作ミス?
瞬きをする私に、彗は苦い表情を浮かべて綺麗な瞳を伏せる。
「すいません。追跡できるようにしました」
「えっ(いっ、いつの間に!?……ええと、えっと…)」



