酔った勢いで契約したレンタルダーリンと期間限定の夫婦生活始めます!

葵さんへの想いをくすぶらせながら、彼と再会することもなく……一月も後半になって、いつまでも無職のままではいられないと立ち上がった私はとある会社の面接を受けていた。社長さん直々に面接すると言われたときは心臓がばくばくしてしまったけれど、社内のお洒落な応接間で向かい合って座った男性社長さんが私の緊張を読み取って「そう緊張しなくていいぜ」と、にかっと笑ってくれたので少し落ち着いた。
社長さんは真剣な表情で私の履歴書をじっと見つめている。緊張しなくていいと言われたけれど面接はやっぱり緊張してしまう。飲み物を私に尋ねてくれた秘書の方が用意してくれたアイスティーのグラスを手に取って、ストローをくわえる。ちゅるるるっと飲んだら一気に半分ほど減ってしまった。だって緊張から喉が渇いていたんだもん。誰に言うわけでもなく心の中で言い訳をする。

「いくつか質問するが、いいかい?」
「はい」
「前の会社はなぜ辞めたんだ?」

相手に気づかれないように深呼吸して退社理由を説明する。それから、社長さんが私にいくつかの質問を投げかける。そのどれも就職するにあたって必要な大事な事項ばかりだった。私は丁寧に、慎重に、言葉を選んで答えていく。
社長さんが履歴書をテーブルの上に一度置いて、何かを考えるように自らの顎に手を添えた。

「ところで君、香水をつけているか?」

突然、予想外の質問が飛び出したものだから「え」と小さく声が漏れた。いや、就職と関係があるのかもしれない。この会社、香水をつけるのはダメ、とか? 私の身体にはつけていないけれど、葵さんの香りがする香水は毎晩、枕にシュッてしている。多分、その匂いが私についちゃっていたんだ。
未練がましくも葵さんの香りに縋って、彼の香りが無いと寂しくて恋しくて苦しくなっちゃって。
使っていくと香水は減っていく。中身がなくなるのは嫌だけど、どうしても、この気持ちに整理がつくまでは香水を使いたかった。

「すみ、ません。寝る前に毎晩、枕に香りをつけている香水があって……多分、それが……」
「ああ、いや。香水が悪いっていう意味で聞いたんじゃない。君、恋人はいるかい?」
「え? ええと、いません、けど」

なんでそんなこと聞くんだろう。

「じゃあ恋しい人は?」
「……あの、この質問は面接に関係ありますか?」
「あると言えばあるな」

この社長さん、少し変わった人なのかもしれない。訝しく思いながらも、頭の中に浮かんでいるのは葵さんの存在だ。

「恋しい人は、います。恋しくて、大好きで、苦しくて、でも……」
「でも?」
「もう、会えないので」
「——そうか」

社長さんは静かに目を閉じてその瞳を隠す。そして、履歴書をまた手に取ると、ざっと目を通してから私の瞳を見つめた。

「面接はこれで終了だ。今から結果を伝えるが、いいかい?」
「は、はい」

無意識に背筋がピンと伸びる。ごくりと唾を飲み込んで、社長さんの視線を受け止める。彼の唇が言葉を放つまでの間がスローモーションに見える。でもその言葉は淡々と吐き出された。

「申し訳ないが、不採用とさせてもらう」

不採用。その言葉が私の胸に衝撃として襲い掛かった。何度経験していても「不採用」と言われたらやっぱりショックだ。それでも何とか気持ちを落ち着けて返事をする。

「――ぁ。は、い……すみません……ありがとう、ございました」

テーブルの上に置いてあった封筒に私の履歴書を入れた社長さんは、その履歴書を顔の横に持ち上げてほんのわずかに口元を緩めて笑った。

「少しここで待っていてもらえるかい?」
「はい、わかりました」
「すぐに戻る。くつろいでいてくれ」

そんなことを言って応接間を出て行った社長さん。部屋に一人きりになったところで脱力した私はソファの背もたれにぐてりと身体を預けた。

「また、だめだった」

やっぱり前の会社を退職した理由がダメだったのかな。それともこの会社を選んだ理由が望むものと違ったのかな。わからない。わからないけれど、また次に向かって動いて行かなくてはいけない。

「ああああくそおおおぉぉ……」

絞り出した声はとってもか細かった。