暗殺者「カラス」

僕はかつて…「カラス」と呼ばれていた。


僕が目を覚まして、数週間がたった。

相変わらずベッドでの拘束は解かれてはいないが、左手だけは自由になった。

手当てもされ、ゆっくり身体を休めた事で回復しつつある。

この数週間…

過去の事でうなされる事はあったが、その度にルカが優しく看病してくれていた。

だから、ルカにだけは心を開けた。

だが、未だにルカは僕を警戒している。

仕えていた主(あるじ)を殺害している…のが、問題なのかもしれない…。

ここの人達に危害を加える気は全く無いことは伝えているが…ルカが信じてくれることはない見たいだ。

「ルカが、僕を、警戒、してるのは、僕の正体が、「カラス」…だから?」

「当たり前だ、今までどれだけの人がお前に暗殺されたと思ってる? お前は危険人物だ…。 そう簡単には信用出来ないに決まってる。」

ルカは僕を睨みつけ、威嚇しながらナイフを握って見せた。

「僕は、ルカ以外の、命令には、従わないし、逆らう、つもりも、ないよ。」

「じゃぁ、私がお前に自害しろ…と言ったら、お前は従うのか?」

「うん、ルカの、命令なら、従うよ。」

そう答えて僕はルカの手からナイフを取り上げ、自分の首に突きつける。

左手だけは拘束されていない為、手の届く範囲の物を素早く、手にする事が出来た。

この行動はルカに証明する為だ。

「おい、こら…ナイフ返せ。 お前は何で私の言葉に従おうとするんだ…。」

ルカは僕の行動に慌てて、ナイフを取り上げて尋ねる。

「僕の目を、綺麗、って言って、くれた、初めての人…だから…。」

僕の瞳を純粋に褒めてくれたルカの、あの時の表情を忘れられないでいる。

今までは僕の目を見て「綺麗」と言ってたヤツらは皆、邪な感情を抱いていた。
だけど、ルカは…ルカだけは違った。

真っ直ぐで純粋な感情だけで見つめていた。
ルカには、ルカだけには本当の僕を、心を見せても良いと思えた。

(ルカの為なら、僕は何でも出来るよ。)

僕は答えてからずっとルカを見つめていた。

「そ、それよりお前…メシはしっかり食わないと、大きくなれないぞ。」

ルカは話題を変える為、僕が手を付けていない食事にフォークを刺して、差し出した。

ルカの顔が少し紅くなっているように感じるのは僕の見間違えだろうか?

それよりも…だ、僕は差し出されたフォークを見つめ、顔を逸らす。

「口を開けて、肉を食え。」

ルカの命令に僕は従う…。
複雑な思いで口を開き、ルカが差し出すフォークに口を付ける。

「しっかり噛んで、飲み込め。」

僕は必死に口の中の肉を噛んでみるが、もともと食事と言う食事を与えられて来なかった為、口から吐き出してしまった。

「おい、大丈夫か? どうした? 無理なら食わなくてもいいんだが…。」

ルカは慌て、僕の反応が異常だと気づき、心配しながら僕の背中をさすってくれた。

「お前なぁー、食えないなら食えないって声に出して言ってくれよ。」

「だ、だって…ルカの、言う事は、ちゃんと、従いたい、んだもん…。」

ルカに従えなかった自分に落ち込み、答える僕にルカは大きなため息をついた。

「お前…まともなメシを与えられてなかったんだろ? だったら、無理しなくて良い。 粥、なら食えるか?」

ルカは呆れながら尋ね、僕は頷く。

「ご、ごめん、なさい…。」

僕は素直に謝ると、ルカは慣れない手つきで僕の頭を撫でてくれた。

少しキツイ言い方だけど、やっぱりルカは優しい女性であると感じる。

「今から用意してもらう訳にも行かないから、次からは粥にして貰えるように伝えておいてやる。だから今は…」

ルカは言葉を止めて、米を口にして、噛み…僕の口へと移す。

「これで我慢しろ…。」

柔らかくなった米はルカの口から僕の口へと流し込まれた。

つまり、口移し…である。

「これなら、食えるだろ?」

僕はルカから与えられた物を飲み込みながら、彼女を見つめて頷いた。

「おい、しい…。」

「なら、いい…。 まだ、食うか?」

ルカの尋ねに頷きつつ、僕は繰り返される口移しの食事を終えた。

初めて、お腹いっぱいの感覚を知ったのだった。