暗殺者「カラス」

僕が持ち帰った情報は思いのほか、重要な資料だった。

リオとルカに呼び出され、尋問かのような質問責めを受けた。

僕は適当に…手当り次第に持ってきたから内容は分からなかった。

その為、ルカとリオに話を聞いても彼女たちも混乱している様子で、何を言っているか全く分からない。

僕は彼女たちから資料を見せてもらった。

資料には「極秘」の判が押されている。

内容は「人体実験」について書かれていた。

「こんな事を試験的運用実験中だって…」

僕は信じられない程、動揺している。

「イブキ…これについて私たちにも分かる様に説明してちょうだい?」

無我夢中で資料に目を通していた僕にリオとルカの声で我に戻った。

そして彼女たちになるべくわかりやすく説明する。

「これには投薬…薬を使った人体実験について書かれていて…戦闘に特化した人間を生み出そうとしている事や実験の成果が綴られているんだけど…」

ルカとリオは僕の話に理解が追いついておらず、パンク寸前…。

「要するに、普通の人間がいきなり筋肉ムキムキの…暗殺に特化した化け物が産まれるって事が書かれてるよ」

「「な、なる程…」」
「その化け物が産まれてたら…勝ち目はあると思うか…?」

僕はルカに対し、正直…目を閉じ、「ない」と首を振り答える。

リオとルカは黙り込む。

僕はもう一度資料に目を通す…。

「ん…?」

この資料通りなら、一件だけ…成功例があるみたいだ。

「但し、ある特定の血液を投薬液に混ぜる事で副作用を抑えられる」

と、書かれており…見知った名前が書かれている。

「リオの血液が有効…血液結果には面白い効果をもたらした」

つまり…リオの血液は副作用を抑え込む効果があったと綴られていた。

夢中で資料に目を通していると、ルカに声をかけられる。

「何かわかったのか? 怖い顔して、凄い目付きをしていたぞ。」

「そんな顔してた? あれ、リオは?」

いつの間にか、リオが居なかった。

「リオなら公務があるって出ていたけど…」

僕が資料に夢中になっている間にリオは護衛と部屋を出たらしい。

「ルカっ…しばらく、リオの護衛にルカも着いて…リオが襲われる可能性があるから。」

すると、慌てた女兵士が手負いで部屋の扉を開いた。

「ルカ様、イブキ様…侵入者がリオ様を…」

女兵士は扉の前で倒れ込む。

ルカは血相を変えて、部屋を飛び出してゆく。

僕は兵士の女性を素早く手当てし、ルカを追いかけた。

ルカは既に手負いで、リオを庇いながら何とか耐えている…といった感じだった。

「ルカ…リオ…」

僕は傷ついている彼女たちを見て、プツリと何かが切れた。

空気が…雰囲気が一瞬にして凍りつく。

相手を睨みつけた瞬間、僕は相手の背後を取り、首にナイフを突きつけた。

「まって…」
リオの一言で僕は手を止める。

「ナニ…?」
氷の様な瞳に、冷たい声でリオに尋ねた。

今の僕には余裕はない…。

「殺すのはダメ…捕らえて尋問します。」

リオの判断は正しい…が、今のコイツとまともに会話は出来ないと僕は…リオに意見する。

「今のコイツを拘束しても意味は無い。 僕も今はコイツを抑えるのがやっとなんだ…早く殺さないと、リオがあぶない」

ヤツは僕を投げ飛ばし、リオに向かって走り出した。

「っ……」
完全にキレてしまった僕は即座にリオを庇い、ヤツの攻撃を受け止める。

僕の左肩を噛みつかれた状態で、リオから少しずつ離れた。

「ルカ…後は、頼んだ…」

「姫を早く、この場から逃がせ」

「はっ」

ルカの部下はリオを連れて、別の部屋へと移動した。

僕はなるべく、リオにこの光景を見せない様にして、化け物の首を切り落とし、血飛沫を浴びながら、ルカを見つめる。

「ルカ…リオ、に…ごめん、なさい、って…」

僕は立っているのも限界だった。
左肩からは止まらない血を流し、倒れ意識を失ったのだった。



その頃のリオはと言うと…

「イブキは? ルカは大丈夫なの? 何故私だけを逃したの?」

リオはルカの部下と護衛に保護され、別室で身を隠していた。

「姫さま、今はどうか大人しくしていてください。 ルカ様の言いつけですので…」

部下も護衛も必死にリオを抑えている。

「私を今すぐ二人のもとへ連れて行きなさい」

姫様はお怒りだった。

しばらくして部屋の扉がノックされ、ルカの声が聞こえる。

「姫様、ご無事ですか?」

「ルカ、無事だったのね。 で、イブキは? 侵入者は?」

「申し訳ありません、侵入者はイブキにより暗殺され、イブキは…重症、とのことです」

ルカが報告すると、リオは「なんで…」と呟き、座り込んだ。

「イブキからの伝言です。 リオ、ごめんなさい…と」

いつも…いや、ほとんど一緒に行動を共にしていた彼女たちにとって、僕が重症である事に心を痛めていたのだった。




侵入者騒動から三週間がたった。

未だ、イブキは目を覚ますことはなく、ベッドで眠っている。

「リオ、公務もあるのに…少しは身体を休めた方がいい。 じゃないと、イブキが目を覚ました時に次はリオが倒れるぞ。」

ルカはリオを心配しつつ、イブキの事も心配していた。

「それはルカも同じでしょ。 ルカだって任務に訓練に忙しいのだから休んだら…?」

リオもルカもお互いを思い合っている。

だが、何故かそこにはイブキもいないと楽しくない…と思っているのは彼女たちだけではないみたいだ。



僕は悪夢を見ていた。

襲撃にあったリオと、リオを必死に護ろうとするルカが僕の目の前で食い散らかされ、殺され…救えなかった…という絶望的な夢だった。

「ルカ…リオ…」

うなされ、もがき苦しむ僕は必死に彼女たちへと手を伸ばす。

「「イブキっ」」

僕の手を強く握ったルカとリオのおかげで安らかで安心した様に目を覚ます僕…

今にも泣き出しそうな…いや、涙目で僕を見つめる彼女たちがいた。

「無事、だったんだね…良かった…」

まだはっきりしない夢うつつの弱々しい僕はリオとルカの顔を見つめて安堵する。

「イブキ、良かった…私のせいで…ごめんなさい」

リオは泣きながら、僕にしがみつく。

「目が覚めて、良かった…」

ルカは僕の頭を撫でながら泣いていた。

僕は彼女たちをこんなに哀しませる程、傷ついていた事を思い知る。

「心配、かけて、ごめん…あと、ありがとう」

彼女たちに謝罪と感謝をしつつ、僕は二人の手を力強く握り返した。

そして、僕は心の中で誓う…

もう二度と今回の様な失態を…彼女たちを哀しませない様に…もっと強くなる…と。

彼女たちを護れるくらいに強く…。