「俺、そろそろバイトに戻るよ。じゃあ、今日はサンキュな」


軽く会釈をして、氷乃瀬くんは店舗へと走って行った。


帰り道。


貰ったお菓子をスクバに入れた私は、いつもよりもゆっくりと歩いていた。


図書館で居眠りしていた氷乃瀬くんに遭遇したのが1ヶ月半ぐらい前。


あれから接する機会が増えたこともあって、この短期間のうちに印象に残る出来事がいくつもあった。


だからなのかもしれないけど、転校してしまう事実を受け止めきれていない自分がいる。


“寂しい”とは少し違うような、なんとも形容しがたい気持ちだ。


餞別、渡そうかな。


バレンタインの時は特にお世話になったから、感謝の気持ちを込めて。


ただ…それを実行に移すとなると、いつどこで氷乃瀬くんに渡せばいいのかという問題が生じる。


引っ越しの話は他言無用。


餞別を贈るところを誰かに見られてしまったら終わりだ。


学校は難易度が一番高いし、さっきのコンビニも絶対に安全とは言いきれない。


そもそもバイト中に渡しに行くとか邪魔になるし、迷惑でしかないよね…。