「氷乃瀬くん!お話し中のところ悪いんだけど少しだけいいかな?」


「どうしたんですか、店長」


慌てた様子でこちらに駆け寄って来た30代ぐらいの男性。


何やら気まずそうな表情だ。


「来週金曜日で最後っていう話だったけど、土曜日まで勤務をお願い出来ないかな。シフト入ってる子から急な予定が入ったから出れないって連絡あってさ。代わりに出勤出来そうな人が他にいなくて…」


「…分かりました、大丈夫です」


「ありがとう。無理言ってすまないけどよろしくね」


ペコペコと頭を下げながら店長さんはお店に戻って行った。


「氷乃瀬くん、バイト辞めちゃうの?」


「実は…そうなんだ。俺ん家、春休みになったら引っ越すから」


「えっ」


その瞬間。
周りの音が全て消えた気がした。


「1年ぐらい前に親から話は聞いていたんだけどさ、ずっとこの街で育って来たから、もうすぐ離れることになるのかと思うと少し寂しい」


おかしいな。


心にズシンと大きな鉛の塊が乗っかっているような感じがする。


もしかしてショックを受けてる?


いやいや、急にそんな話を聞いたから驚いているだけだよね。