「バイト中に突然ごめんね。今日配られたプリント類を持って来たの」


「あ、ありがとう。でもどうして陽咲が?」


「5組の鮎川くんに、用事があるから代わりに届けて欲しいって頼まれたんだ。サンドイッチ屋さんに行った日、氷乃瀬くんと一緒に歩く私の姿をどこかで見かけたらしくて」


「……そうだったのか」


「他の男子にもお願いしたけど、みんな予定があってダメだったみたい。私よりも鮎川くんや同じクラスの男子の方が良かったよね」


「いや、全然。むしろ陽咲の方が嬉しい。今日、会えるなんて思ってなかったから」


急に声が小さくなった氷乃瀬くん。


目を逸らすところを見るに、やっぱり男子の方が良かったに違いない。


私に気を遣ってくれたんだろうな。


「っていうかさ、俺がここでバイトしてるのよく分かったな。それも鮎川から?」


「ううん、マンションのエントランスでたまたま住人の女性に会って、その人から教えてもらったの」


「そっか。用事が早めに終わったから休暇を取り消してバイト入ってたんだけど、家に居れば良かったな。あちこち歩かせてごめん」


「全然大丈夫。あっ、バイトの邪魔になるから私はこれで失礼するね」


帰ろうとした時、氷乃瀬くんに手を掴まれた。