他の部屋の表札も確認したけれど氷乃瀬という表札は見当たらない。


というか、半数近くが表札を出していないため絞り込みが出来ない。


困ったな…。


「そんなところで何してるの?」


振り向くとコンビニ袋を手に提げた、小柄な50代くらいの女性が不思議そうな表情で私を見ていた。


「あの……こちらのマンションにお住まいの方でしょうか?」


「ええ、そうだけど」


少し戸惑い気味の返事。
不審者だと思われているに違いない。


「突然お声を掛けてしまってすみません。私、近くの高校に通っている陽咲と申します。同級生の氷乃瀬くんにプリントを届けに来たんですが、何号室に住んでいるのか分からなくて…。もしご存知でしたら教えていただけませんでしょうか」


ありのままの事情を説明すると、女性は“そういうことだったのね”と言わんばかりの顔でコクコクと頷いた。


「氷乃瀬さんなら確か502……いや503号室だったかしら。たまにエントランスで奥さんと会ってご挨拶する程度だから、ハッキリ覚えてなくてごめんなさいね」


「大丈夫です、ありがとうございます」


色々と物騒な世の中だけに教えてもらえるか不安だったけど、思いきって聞いてみて良かった。


どちらも表札は出ていないし、とりあえずインターホンを鳴らしてみよう。