あれ?
声の雰囲気的に怒ってはいなさそう。


「実は陽咲さんに頼みたいことがあるんだけど…」


「私に?」


コクコクと頷いた鮎川くんはスクバから複数枚のプリントが挟まっているA4のクリアファイルを取り出した。


「これを氷乃瀬の家に届けて欲しいんだ。アイツ、今日は家の用事で欠席でさ、家が近所っていう理由で先生に頼まれたんだけど、このあと歯医者だったのスッカリ忘れていて、これから行かないといけないから」


「ま、待って下さい!どうして私のところに来たんですか?」


「他の男子にも声は掛けたんだけど、みんな予定があって。女子はトラブルの元になるから、先生は届け物を頼まないようにしてるらしい」


そこまでしないといけないなんて、先生も大変だな。


「あの、一応……私も女ですが」


「もちろん分かってるよ。でも陽咲さんは氷乃瀬のお気に入りみたいだから例外じゃん!」


「え?」


「だって、アイツが女子と一緒に帰るところを見たの超久しぶりだし。それに今まで見たことないような優しい顔してた」


今の話は間違いなくあの日のこと。


鮎川くん、どこかで私たちを目撃していたんだ。