「あの、陽咲さん……だよね?」


帰ろうと教室を出たところで知らない男子生徒に声を掛けられた。


「はい、そうですけど」


「ここだと人目につくから場所変えてもいい?」


キョロキョロと周りを気にしながら小声で話す男の子。


戸惑いながらも頷くと、男の子は口パクで“非常階段”と告げて先に行ってしまった。


廊下では話せないことって何?


もしかして、私が思い出せないだけで彼が不快に感じるようなことをしてしまったんだろうか。


カウンター当番の時、貸出や返却をする生徒で混雑していると素っ気ない応対をしてしまうことがあるし…


そういう態度にイラッときたのかもしれない。


とにかく、どんな非難をされても真摯に受け止めてきちんと謝ろう。


私は緊張しながら非常階段へ向かった。


「突然ごめん。俺、1年5組の鮎川と言います」


ペコリと頭を下げる彼を見て、私も反射的にお辞儀をした。