「いや、えっと……今日はだいぶ無理をして疲れたんじゃないかと思って」


「俺が?別に疲れてないけど」


「そ、そうなの?いつも、女の子に話し掛けられると不機嫌そうだし反応も冷たいから、てっきり女子と関わるのは苦痛なのかと」


「基本的にはそうだよ」


息を吸うようにサラリと肯定。


私に面と向かって言うのは気が引けるから“疲れてない”なんて咄嗟に嘘をついたのかな。


「でも、陽咲は特別」


「えっ?」


「他の女子とは違うってこと」


それって、どういう意味?


首の後ろに手をあてて視線を泳がせる氷乃瀬くんに真意を聞こうとした時。


「ごめん、電話だ」


絶妙なタイミングで彼のスマホに電話がかかってきてしまった。


「あの、氷乃瀬くん。ここから学校が見えるし、私は…もう大丈夫。ダッシュすれば次のバスに乗れそうだからここで失礼するね。今日は色々とありがとう」


お辞儀をしてから走り出す。


後方から氷乃瀬くんが私を呼ぶ戸惑い気味の声が聞こえてきた気がしたけど、振り返ることはしなかった。