「そう言えば、笹森センパイ…あれから陽咲に近付いたりしてないよな?」


「うん」


歩きながら不意に氷乃瀬くんが口を開く。


もしかして、ずっと気にかけてくれてたのかな。


あの日以降、本当に何もされていない。


数日前に廊下ですれ違った時も、私の方に視線を一切向けることなく去っていった。


まるで私の存在を抹消しているかのように。


「実は、ちょっと意外だった」


「何が?」


「陽咲がセンパイに告白しようとしたこと。前にあの人と保健室で会話してた時、側に居られるだけで嬉しいっていう雰囲気で、好きな人に対して積極的に行動するタイプには見えなかったから」


短時間の出来事だったのに、わりと的確に見抜いてる。


思わず苦笑してしまった。


当時の私は、ほんの少しだけでも先輩の姿を見かけることが出来たら、それだけで満足してしまうぐらい、恋を進展させることには消極的で。


いつか告白できたら、両想いになれたら…という願望の域だった。