「やっと俺の前で笑ってくれた」


「私、笑ったことなかったっけ?」


「俺に対しては無いよ。出会った時は怒ってたし、それ以降は不機嫌そうな顔してることが殆ど。それにバレンタインの時は辛そうな顔してたし」


振り返ってみれば確かに。


初対面から印象が良くなかった上に、笹森先輩のことをいつも悪く言ってたから、笑顔になれるわけがなかったんだよね。


「だから笑顔の陽咲を見れて良かった。今日は俺に付き合ってくれてありがとう」


そう言った氷乃瀬くんは嬉しそうに笑っていて。


どうしてそんな表情をするのか、私はよく分からなかった。


「そろそろ帰るか。高校の近くまで送る」


「来た道を戻るだけだから大丈夫。サンドイッチ屋さんの前を過ぎて、あの赤い屋根の家の角を左に曲がって、えっと……」


三叉路を右だっけ?


いや、十字路だったかも…。


「その感じだと途中で道に迷いそうだから一緒について行くよ」


「お、お願いします…」


帰り道までお世話になるのは申し訳ないけど、迷ってあちこち彷徨うことになったら恥ずかしいし、ここは素直に頼ろう。