「何もしてないのにお礼を貰うわけには…」


「ここまで一緒に来てくれただけでも感謝だし、嬉しかったから」


「えっ…」


今、嬉しいって言った…?


驚いて瞬きを繰り返すと、氷乃瀬くんはハッとしたような表情をした後に咳払いをした。


「とっ、とにかく…温かいうちに食べなよ。この肉まん、結構うまいから」


「………うん」


一番近くに置かれていたベンチに腰かけて肉まんを頬張る。


ふわふわの生地の中にたっぷりの豚肉と玉ねぎが入っていて、甘みと旨味が絶妙なバランスでとてもジューシーだ。


「この肉まん、凄く美味しい」


「だろ?この近くに老舗の中華料理屋があってさ、冬だけ肉まんを作ってるんだ。個数が限られてるから夕方だと売り切れの時もあるけど」


「そうなんだね」


それだけ詳しいということは、よく買いに来てるのかな。


氷乃瀬くんの家がこの近所なのかも。


お腹が空いていたこともあって、肉まんは短時間で食べ終えてしまった。


「ご馳走さまでした。こんなに美味しい肉まん食べたの初めて。ありがとう、氷乃瀬くん」


満足感と幸福感に浸っていた時だった。