「……ちょっと甘いけど、美味い」
「笹森先輩、スイーツは甘さ強めの方が好きらしいから」
どうやら氷乃瀬くんの口には合わなかったみたい。
でも直球の感想は悪いと思ってオブラートに包んだんだろうな。
小箱にフタを被せてスクバに入れると、氷乃瀬くんが“あのさ…”とぎこちない様子で口を開いた。
「次のバレンタインは俺にチョコ作ってよ」
「急にどうしたの?美味しいチョコが食べたいなら市販のものを買った方が……」
「俺は陽咲の手作りが欲しいから」
そう呟いた氷乃瀬くんは首の後ろに手をあてながら立ち上がる。
「じゃあ、気を付けて帰れよ」
そのままスタスタと足早に教室から出て行ってしまった。
今のは何だったんだろう。
さっきの“美味い”っていう感想は気を遣ったわけじゃなくて本心だったってこと?
それなら別に来年のバレンタインまで待たなくても作るのに。
ただ……
しばらくはお菓子を作る気分にはなれないと思うから、また作りたいと思えるようになった時でいいかな…。
その頃には“もう要らない”って氷乃瀬くんに言われそうだけど。
私は散らばったノートやテキストを拾いながら苦笑いを浮かべた。


