「どうして……」


中に入って来た氷乃瀬くんの姿を見た私は、慌てて視線を逸らして俯く。


一体、何しに来たんだろう。


もしかして、危機的な状況を救ってやったんだからもっと感謝しろよ的な?


それとも、教室に忘れ物だなんて不自然な理由であの場から逃げるように立ち去ったのが癪に障った…とか?


足音が近付いてきて私の側で止まる。


文句あるいは不満の言葉が投下されるのかと思いきや、机の上に何かを置いた音がして。


おそるおそる顔を上げてみると、そこにはホットココアの小さなペットボトルがあった。


「さっき体が震えてただろ。これを飲めば多少は気持ちが落ち着くかと思って」


「えっ、それで教室まで来てくれたの?」


「……気になって放っておけなかったから」


氷乃瀬くんが心配になるぐらい悲惨な状態だったのか。


「今日は色々と迷惑かけてごめんなさい」


「別に迷惑じゃないし。そんなことより温かいうちにココア飲みなよ」


小さく頷いてペットボトルを手に取る。


一口飲むと優しい甘さが広がって少し気持ちが穏やかになった。