「陽咲、ケガはない?」


いつの間にか私の方に体を向けていた氷乃瀬くん。


心配そうな表情。


その視線は私の手首を見ていた。


「うん、大丈夫」


もしかして先輩に強く掴まれていたから気にしてくれているのかな。


あの時は痛かったけど、すぐに氷乃瀬くんが助けに入ってくれたから今は何ともない。


「私一人じゃどうすることも出来なかったから、どうもありがとう。でも氷乃瀬くんはどうしてここに?」


「あ、えっと…本を借りに図書館に寄った後、チョコを渡そうと追いかけて来る女子から逃げていたんだけど、ソイツが諦めて帰ったから俺も帰宅しようとしていた時に、部室棟の方に走っていく陽咲を見かけたんだよ」


「それでわざわざ…?」


「慌てた様子の陽咲を見て、なんか嫌な予感がしたから」


直感的に危険のようなものを察知してくれたってことだろうか。


そのおかげで私は何事もなく済んだけど、もしあのまま誰も助けに来てくれなかったら…


考えただけで体が小刻みに震え始めた。