春待つ彼のシュガーアプローチ


人気のない静かなところで音をたてたりしたら…


慌てて拾って、その場から立ち去ろうとした時、背後からガチャッとドアの開く音が聞こえてきた。



「そんなところで何してるの?」



いつも通りの優しい声。


おそるおそる振り向けば、少し不思議そうに首を傾げつつも穏やかな表情の笹森先輩がいて。


さっきまでの私だったら声を掛けてもらっただけでも嬉しいはずなのに、今は…顔が強ばってしまっている上に、手の小さな震えが止まらない。


「もしかして、その手に持っているものを俺に渡そうと思って来てくれた…とか?」


少し照れくさそうな笑みを浮かべる先輩。


声も表情も一見すると普段と変わりないけれど、目に感情がないような気がして背筋に冷たいものが走る。


私は、近づいて来た先輩と距離をとるように後退りをした。


「顔色悪いけど大丈夫?」


どういう反応を返すのが最適解なのか分からず固まっていると先輩は溜め息をこぼす。


「その様子だとやっぱり聞かれちゃったみたいだね、電話のやりとり」


次の瞬間、先輩から笑顔がスッと消えた。