春待つ彼のシュガーアプローチ

突然、部屋の中から響いてきた怒鳴り声にビクッと肩が震える。


今の声、笹森先輩だよね……?


「……ったく、使えねぇヤツ」


そのあと少し静かになったものの、再び先輩の苛立った声が聞こえて来た。


「あー、俺だけど。お前に頼みたいことあるんだよ」


先輩の他に生徒が居るのかと思ったけど、どうやら誰かに電話を掛けているようだ。


「今日のチョコ、買い取るって言ってたヤツが一方的に白紙に戻すとか言いやがってさ。急で悪いけど、今年もお前のところで処分してくれね?」


ちょっと待って。
何なの、その話…。


頭の中で先輩の声がグワングワンと反響する。


「……よろしく頼むわ。ったく、バレンタインとかいう胸糞悪いイベント、さっさと消滅してくんねーかな~」


私、嫌な夢でも見てるのかな。


それなら早く醒めて…。


呆然と立ち尽くしていた私だけど、手に持っていたチョコ入りの箱を落としてしまい、ハッと我に返った。