春待つ彼のシュガーアプローチ

足が速くて途中で見失ってしまったけれど、この先にある施設は限られている。


グラウンドに誰もいないということは、残るは部室棟だけ。


部活停止期間ということもあり、ここは普段とは違って凄く静かだ。


たしか、1階の一番奥がサッカー部の部室だって前に萌絵ちゃんが言ってたっけ。


部屋の前まで来た私はスクバからラッピングした正方形の小箱を取り出す。


ドアをノックしようとしたけれど、その手をピタリと止めた。


笹森先輩にチョコを渡せる…と思って、衝動的にここまで来てしまったけれど、これってかなり迷惑行為だよね。


今日は大勢の女の子たちからチョコを受け取っていたし、その都度、一人ひとりに丁寧にお礼を言っていた。


授業以外の時間は殆どそんな状態だっただろうから、静かな場所で少し落ち着きたいと思って部室に来たのかもしれない。


「………」


でも、そんなことまで考え始めたら先輩に気持ちを伝える最良のタイミングなんて、この先あるんだろうか?


男友達やファンの女の子たちに囲まれていることが殆どで、普段から声を掛けるのだって難しいのに。


このまま押しきるか断念するかで葛藤していた時だった。



「は?どういうことだよ。話が違うじゃねーか!!」