「氷乃瀬くんにチョコ作って来たんだ。味には自信あるんだよ~」


「私も手作りなの。良かったら受け取って下さい」


「いらない」


頬を赤らめながらチョコを差し出す女の子たちを一言で一蹴した氷乃瀬くんは、足早に教室の方へと行ってしまった。


バレンタインみたいなイベントは、氷乃瀬くんにとって面倒でしかないんだろうな。


今日はいつも以上に声をかけてくる女の子が多いだろうし大変そう。


私にちょっかい出してる場合じゃないのでは?


苦笑いした後、未だに女子生徒たちに囲まれている笹森先輩を見つめた。


あの状態だと朝のSHRが始まるまでにチョコを渡せそうにないし、お昼休みに再挑戦しよう。


……と思ったのだけれど。


「笹森くんにチョコ作って来たよ!」


「たくさん貰ってると思うけど私のも受け取ってくれる?」


午前の授業が終わって直ぐに先輩のクラスに向かったものの、教室前の廊下は既に大勢の女子生徒たちで賑わっていて。


その輪の中心には笹森先輩がいた。


今朝は1年生が多かったけど、今度は先輩と同学年の人たちばかりだ。


渡す時間帯に暗黙のルールなんて無いと思うけど、入り込める雰囲気じゃない。


こうなったら放課後に再々挑戦しよう。