あぁ、ビックリした。
相変わらず気配がない人だな。


遭遇しないよう出来るだけ危機回避していたのに、よりによって今日会ってしまうなんて。


「だったら何?」


「来る者拒まずで八方美人なセンパイだから、チョコを渡せば営業スマイルで受け取ってくれるだろうけど、それでいいの?」


氷乃瀬くんって先輩に何か恨みでもあるんだろうか。


どうも言い方に棘があるんだよな。


「そうだとしても、自分の気持ちをちゃんと伝えたいから」


きっと私がチョコを渡して告白をしたところで、先輩との関係が直ぐに進展するなんて思ってない。


そもそも、この恋が叶うことだってかなり望み薄だ。


分かってはいるけど、ただ遠くから見ているだけじゃ何も始まらないから。


「……あっそ」


素っ気ない声。


どことなく不機嫌そうな顔。


こういう話は心底どうでもいいって思っているんだろうな。


そっちが先に煽ったくせに。


鋭く睨みつけていると氷乃瀬くんの周りに数人の女子生徒が駆け寄ってきた。