そして、迎えたバレンタイン当日。


笹森先輩へ渡すチョコをスクバの中に忍ばせて、ぎこちない足取りで校門をくぐった。


家族以外の男の人に手作りチョコを贈るなんて生まれて初めてだから緊張する。


ソワソワしながら昇降口にやって来ると、たくさんの女子生徒たちに囲まれている笹森先輩の姿が目に飛び込んで来た。


「先輩、チョコ作ったので良かったら食べて下さい!」


「これ、手作りです。サッカー頑張って下さい、これからもずっと応援してます!」


ある程度の予想はしていたけど、まさか数十人の女の子たちが朝からチョコを渡すために群がっているとは。


「ありがとう、手作りなんて凄く嬉しいよ。大事に食べさせてもらうね」


次から次へとチョコのプレゼントラッシュにも関わらず、先輩は一人ひとりに対して丁寧にお礼を言って受け取っている。


人気があっても驕らず、謙虚なところも素敵なんだよね。


「陽咲もチョコ渡すの?あのセンパイに」


聞き覚えのある声におそるおそる振り向くと氷乃瀬くんが冷ややかな目で私を見ていた。