だから当番の今日、氷乃瀬くんが来たらどうしよう…と思っていたんだけど、杞憂に終わって良かった。
胸を撫で下ろしていた時だった。
「そう言えば、陽咲さんって氷乃瀬と何かあった?」
私たちと一緒に当番をしていた6組の馬淵くん。
彼からの予期せぬ言葉にビクッと肩が跳ねた。
「何も無いけど、どうして?」
「昨日の放課後、当番の田沼先輩がカウンター周りの掲示物の張り替え作業をしていた時に氷乃瀬に声を掛けられたらしくてさ、陽咲さんが図書館に来ているかどうか聞かれたって言ってたから」
「ふーん……」
曖昧な反応でかわした私は、戸締まりや忘れ物がないか等を確認するためカウンターを離れた。
相手が男子だと苦手意識もないから普通に話し掛けることが出来るってことか。
いやいや、そんなことを呑気に考えている場合じゃない。
昨日、来ていたんだ…氷乃瀬くん。
危機回避できたことへの安堵と同時に、次に会ったら何らかの頼み事されるのは不可避だと言うことも分かり、だんだん気が重くなっていく。
心に灰色の霧が立ち込めているかのような、どんよりとした気持ちで館内を見回っていると萌絵ちゃんが駆け寄ってきた。


