「もしかして、優しくしてもらったエピソード回想中?」
頬杖をついて訊ねる氷乃瀬くんは何故か少し不機嫌そうに見えた。
「先輩は困っていた私を助けてくれたの」
「さりげなく良い人アピールしただけ。あの人の優しさは他人のためじゃなくて自分のためなんだよ」
「デタラメなこと言わないで。先輩はいつだって他人ファースト。どんな人にも気遣いと思いやりをもって接しているんだから」
「そういう高評価を得るために抜かりないからね」
酷い言い様。
話を聞いていても不快になるだけだし、課題は家でやることにしよう。
手早くテキストやノート等を片付けて席を離れようとした時、氷乃瀬くんが私のスクバの肩紐を掴んだ。
「笹森センパイは…やめた方がいい」
「なんでそんなこと言われなきゃいけないの?私が誰を好きでいようと氷乃瀬くんには関係ない」
「……そうだね、正論」
ゆっくりと離れていく氷乃瀬くんの手。
少し戸惑いながらも、私は逃げるように図書館を飛び出した。


