この別館の傍には大きな桜の木と花壇があって、図書館の窓際からもよく見える。
笹森先輩はたまに桜の木の下に来て、友達やサッカー部の仲間とお喋りしているのだ。
私も見に行きたい。
探していた本を発見すると、氷乃瀬くんに手渡す。
「借りるならカウンターで手続きしてね。私は席に戻るから」
この場を離れようとしたけれど、なぜか彼に腕を掴まれた。
「……まだ何か?」
「陽咲のオススメ推理小説も知りたいんだけど」
「課題やらないといけないから後日でお願いします」
素っ気なくあしらって腕を振りほどくと、氷乃瀬くんからため息が漏れた。
「そんなに笹森センパイが気になるの?」
「は?何言って……」
「好きなんでしょ?あの人のこと」
一瞬にして体が凍りつく。
もしかして……
背中に嫌な汗がつたうのを感じた。


